反響する真実、9
聖教会騎士団はイニチェたちの宿泊している宿に殺到していた。宿の中に入りきらない騎士たちが外にたむろしており、手に手に武器を持ち、殺気を放ちながら宿や路地をにらんでいる。窓からは、騎士たちが部屋を踏み荒らしている様子が見えた。宿泊客たちは着の身着のまま宿から飛び出てきて、騎士たちに取り押さえられている。捕まえてから、邪教徒かどうか念入りにチェックしているようだ。何人か倒れている人もいる。
「げっ……。とんでもないことになってる……」
たしかにビスキュイ殿下は聖教会騎士団を進軍させたわけだし、僕もこうなることを危惧してここに来たのだが、……ここまで生々しい状況は想像できていなかった。
「どうするの?」シャルロット様が言った。
「どうもこうもないです。ちょっと行ってきます」僕は軽くストレッチした。
「お二人はここで待っていてください」
「手伝うわよ?」シャルロット様は真顔で言った。
「すぐ戻ります」
僕は転移魔術でイニチェの部屋まで直通の転移門を開いた。さっきのもそうだけど、通常の転移ではなく、重畳転移だ。テレプリポートには『一定期間、魔術が使えなくなる』という副作用があったのだけど、それはもう克服済み。この程度の距離なら使い放題に近い。
「イニチェ! いるか!?」
僕はイニチェの部屋に転移して、叫んだ。
返事はない。部屋は荒れ放題で、前に僕が入った部屋と同じとは思えなかった。一瞬間違えたかと思ったくらいだ。ただ、脱ぎ散らかされた子供服や、キッチン周りに散乱しているワイン瓶の破片らしきものから、間違いないようだった。
「いない……? 逃げたのか?」
「誰だ、貴様!?」騎士の怒声が聞こえた。
描写していなかったが、部屋にはすでに騎士が四人いた。それぞれ、家中をひっくり返して、イニチェたちやその手掛かりを探していたらしかった。
その全員が、いきなり部屋に現れた僕をみて色めき立った。
「イニチェと言ったな! イニチェ・ヘルウィムの仲間か!?」
「決まってる! 取り押さえろ!」
「三下は寝てなよ」
僕は重力魔術で彼らを張り付けた。床ではなく天井に。歩くときに邪魔になるからだ。
四人はもごもごと何かを言っていたようだが、僕は気にしなかった。どうせ罵倒に決まっている。
部屋は全て見たが、やはりイニチェたちの姿はないらしい。空間把握の魔術でも引っかからないから、クローゼットの中に隠れている、というわけでもないらしい。
仕方ないので、張り付けにした四人のうちの一人から話を聞くことにした。しゃべらないよりはしゃべってくれた方がいいと思って、一番暴れている奴から話を聞くことにした。
「ここにいた奴らは?」
彼を一度床に落とし、後ろから左腕をねじり上げてから質問した。
「誰が邪教徒なんかに教えるか!」
「僕、邪教徒じゃないけど」
「嘘つけ!」
どうも礼儀を知らないようだったので、礼儀作法というものを左腕に教えてやった。
「いででででで! わかった、言う!言うからやめてくれ!」
「えっ、もう? まだ骨も折れてないのに……」
「人を臆病者みたいに言うな。腕引きちぎられると思ったら、誰だってこうなるわ!」
「で、どこ行ったの?」
「知らねえ」
「はあ?」
僕が顔をしかめたのに気づいて、彼はあわてて言い足した。
「ホントだって! ホントに知らねえんだ! 俺たちがここに来た時にはもう誰もいなかったんだって!」
「……」
「し、信じてくれよぉ……」
「……はぁ」
僕はため息をついた。どうも、嘘をついている様子はないらしい。騎士ともあろう者が目にうっすら涙まで浮かべたのだ。信じてやろう。
しかし、そうなると手詰まりだ。彼らはうまく逃げたと考えてよさそうだけど、僕としてはイニチェたちの助けを借りたかったのだが……。
そのとき、ふと「視界」の端に小さな魔力のかたまりが見えた。魔剣のようだった。部屋の中にある。騎士団の持ち物ではなさそうだ。
「……?」
僕は騎士を再び天井にはりつけにした。
それはベッドの下の隙間に押し込まれていた。
僕はベッドの下に手を突っ込んで、それをひっぱり出した。それはなんとエッチな本……ではなく、まあ魔剣だった。それにメモが張り付けてある。
『お前たちが予告していた場所にいる』
僕は魔術でそのメモを燃やし、灰を払った。
話があるのは向こうも同じらしい。




