反響する真実、7
マリーナに憑依したミカエルは、僕に近づいてくると手をかざした。さっきまで僕の転移魔術を阻んでいた透明な壁のあったあたりだ。
壊すつもりだろうか。
「貴様は転移魔術の使い手だそうだから、逃げられぬよう、虜にしてやろう」
ハッとして逃げようとしたが、遅かった。また転移を妨げられた。
ミカエルの触れた壁は、変形し、今度は僕を囲んだようだった。
防壁は作成した本人か、操り方を聞いたものなら動かすことができる。この壁も、防壁の一種ということだ。
背後の壁を叩いた。やはり、ぶ厚い。僕は単純な力押しの魔術はあまり持っていない。転移魔術だったり、重力魔術だったり、相手の虚を突くような小手先のものばかりだ。火力という意味では紫電剣があるけれど、あれは電気なのでこういう物理的な壁にはあまり役立たない。
魔力を大量に消費して壁をぶち抜く単純な魔術を使ってみるか……?
「あきらめた方がいい」
ミカエルは壁を『すり抜けて』中に入ってきた。
一応、抜け道はあるわけか。だけど、僕は高次元空間を知覚できる『目』は習得していない。戦いながら抜け道を探すのは無理だ。
「この壁は私の作ったものだ。貴様がどんな魔術を用いようとも、簡単には壊せない」
「簡単にって、どのくらい?」
「ううむ、人間にもわかる尺度で言えば……、レベル7か8相当の強度、といえば伝わるか? その程度の魔物を閉じこめることができる」
ダメだ。どう考えても無理だ。それはたぶんミョルニルでも破壊できない強度だ。
相手が人間なら、ハッタリという可能性もあるが、あいにくとこいつは天使だ。嘘はつかない。
いや、ちょっと待て。
「そもそも、お前、誰だよ?」
「む? 天使ミカエルだ。名乗ったはずだが」
「違う。そういうことじゃなく……、僕の知っているキャラクターにお前たちはいなかったぞ。何者なんだよ」
「私たちは『追加キャラクター』だ」ミカエルは無表情でそう言った。
「フォルトゥーナ様がそうおっしゃった。『私が作ったゲームではないが』ともおっしゃっていたな。意味は知らん」
「なんだよ、それ」
「お前が『キャラクター』だの言いだしたら、こう言えと言われていたのだ」
そうか。フォルトゥーナはゲームのことを知っているのか。やっぱり僕のことは完全にばれてるっぽいな。
この天使に勝つこと自体は難しくない。逃げるのも、可能だろう。暁の聖剣を使えばいい。
だが、僕はこいつ相手には聖剣を使わないつもりだ。理由は二つある。一つは魔力を消費しすぎるから。こいつは倒せても、その後がどうしようもなくなる。ビスキュイ殿下は僕を殺すつもりだ。だからこそのこいつなのだろう。僕に聖剣をつかわせて魔力切れになるのを期待しているのだ。そうはさせない。
もう一つは、シャルロット様に聖剣を使っているところを見られたくないからだ。
とはいえ、この局面は厳しい。
どうやって、乗り切るか……。
防壁がミシミシときしむ音がした。
ミカエルがぎょっとした表情を浮かべている。
それだけで僕には何が起きているか、だいたい察しがついた。
直後、「バリン!」と大きな音がした。防壁が崩壊したのだ。
「手強そうな相手ね。助けが欲しいんじゃない?」
僕の背後からシャルロット様の声が聞こえた。




