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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
ホィールオブフォーチューンの崩壊
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反響する真実、6

 ブラズ殿下は兄の命を奪った剣を引き抜き、それを納め……、兄の胸倉をつかんだ。そのまま遺体を玉座から引きずり下ろし、ひな壇から投げ捨てた。遺体はごろごろと転がって、兵士たちに隠れて見えなくなった。


「ありがとう。戻っていいよ、父上」


 ビスキュイ殿下は微笑みを浮かべ、背伸びをして父の頭をなでた。ブラズ殿下は椅子へ戻っていき、何事もなかったかのように腰かけた。


「……血で汚れているが、まあ、この際いいか」ビスキュイ殿下はそうつぶやいて、玉座に座り、にやりと笑う。

「いやあ、玉座! 玉座ですよ、姉上! ついにやりました! 私の玉座です、姉上!」


 ビスキュイ殿下は満足そうに笑い、ひじ掛けをポンポンと叩いている。

 その喜びようはまるでおもちゃを買ってもらった子供のような無邪気さだった。


「いかがですか、姉上。私はもうあなたが哀れむような、か弱い子供ではありませんよ」


 シャルロット様は呆然自失といった様子だ。もうすでに立つ気力はなく、力なくしゃがみこんでいる。ベルさんはそんなシャルロット様の肩をゆすり「しっかりしてください、シャルロット様!」と呼び掛けている。ショコラの姿はいつの間にかなくなっていた。


「姉上は喜んでくれたかな……。お前はどう思う、クリム?」


 僕はひな壇を振りかえった。ビスキュイ殿下は元の少し意地の悪い笑みに戻っていた。

 僕はその笑みをみて猛烈に腹が立った。


「……シャルロット様は、前に言っていました」


「うん?」殿下は首をかしげた。


「あなたを幸せにするために、女王になってみせると。あなたは幸せになる資格があると。なのに、あなたは……!」


「そうか。それは初耳だなあ」殿下は空々しくいった。

「あらかじめ知っていたらこんなことはしなかったかもしれないなあ。でも姉上は意地っ張りで、私たちは顔をあわせればケンカばかりだった。いやあまさか、そんなことこれっぽちも知らなかった。ああ、残念だ残念だ……」


 殿下は、ぺらぺらとそう言うと、スイッチを切ったように無表情になった。


「それがどうした? 姉上が勝手に願っただけだろう。私に罪悪感でも抱けと?」


「そうじゃない。そうじゃないけど――」


「だったらなんだ! お前たちの言葉は薄っぺらいんだよ! 自分たちばっかりぬくぬくと育ちやがって。幸福の中で生きてきたお前たちが、そうじゃなかった私を勝手に評価するな! 虫唾が走る!」


 殿下は杖を床に叩きつけた。


「教皇! 進軍させろ!」


「御意」教皇が立ち上がり、ゆっくりと手をあげた。

「進軍せよ。我が騎士たち。目を開かざる邪教徒どもを王都より滅せよ」


 中庭に兵士たちの号令が響きわたる。


「マリーナ!」その合間にビスキュイ殿下の声が聞こえた。

「そこのタキシードの男の相手をしろ! 殺してもかまわん!」


 タキシードの男とは、僕のことか。

 ……マリーナ? どこかで聞いたような名前だけれど……。


「はーい……」


 なんともやる気のない声が、兵士たちが移動する金属音の奥から聞こえた。兵士たちが王宮の外へと出ていく。彼らがいなくなったことで、その奥にいた少女の姿に気づいた。肩に黒いカラスをとめている。


「こんにちは、お兄さん……。クリムさん、でしたっけ。奇遇ですね。まあ、今回は偶然じゃないですけど……。それじゃあ、始めましょうか……」


 マリーナが目を閉じる。カラスが羽ばたいた。

 マリーナが再び目を開くと、その瞳は白く染まっていた。


『ごきげんよう、外の者。我はミカエル。フォルトゥーナ様に仕える天使の一人。フォルトゥーナ様がお呼びであるがゆえに、我がそなたに死を賜ろう。さあ……、有難く頂戴するがよい』

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