反響する真実、3
ミカを探し始めてから、三時間が経過した。
まず、公園の中にミカはいなかった。
その後「ミカは時計塔にいるかも……。ミカ、時計塔好きだったから」という少年の言葉通りに時計塔にいってみるが、ミカはいなかった。少年が「階段が多くてつかれた」というのでおぶってやって登ってみたのに、いなかった。
少年は時計塔からの景色をつまらなさそうに一瞥して、「ここじゃないみたい」と言った。
次は「東の市場にいるかも。そこで買ったリンゴが美味しかったから」というのでそこへ行った。ミカはいなかった。
「いないなあ」少年はリンゴをかじりながら言った。
「じゃあ、次は――」
こんな風にして、僕たちは王都中を練り歩いた。
東の市場に行く頃には、もう少年は「疲れた」としか言わなくなっていたので、僕は彼をおぶって歩いた。
一体全体、僕は何をしているんだろう……。
「「あ」」
そんなことを考えていると、イニチェとばったり出くわした。
南東の広場でのことだった。真ん中に噴水があって、涼みに来ている人が大勢いた。
イニチェは、ユンとフロイと手をつないでいて、完全に休日のお父さんだ。
恥ずかしかったのか、ユンとフロイはパッと手を離した。
「……よう」イニチェはむっと顔をしかめた。
「また会ったな」
「まだここにいたんだな」僕は言った。
「警告したのに」
「無理だといったはずだ」
「……」
「……ところで」
イニチェは僕の背中におぶっている少年を指さした。
「その子は誰だ? 親戚の子か?」
「いや、迷子の友達を探してる子だ」
「知り合いか?」
「ううん、全然知らない子」
僕が首をふると、なぜかイニチェは怯えたような表情になった。
「そ、そうか……。……大丈夫なのか?」
「なにが?」
「いや、その、最近騎士団の見回りも強化されたようだし、捕まったり……」
「どういう意味?」僕は口をへの字に曲げた。
「その言葉、そっくりそのまま返しておくよ」
「まあいいか……。進展はありそうなのか?」
進展、というのは掃討作戦のことだろう。
僕はうなずいた。
「ある。日取りも決まったみたいだ」
「そうか」
「君の主人も本格的に絡んでる。尻尾のように切られるよ」
「奴は主人じゃないし、俺はトカゲじゃない」
「そう思ってるのはきっと君だけだ」
「……」
ぷいっとイニチェは踵を返した。
ユンがあわてたように言った。
「え、帰っちゃうの!?」
「ああ。遊ぶ気分じゃない。帰ろう」
「ええ~、そんなあ~、お願いしますよぉ~」
イニチェとユンが行ってしまった後、フロイはぺこりと頭を下げてから二人を追いかけていった。
「……友達?」
僕は三人の後ろ姿をしばらく見ていたが、少年に声をかけられて我に返った。
「え? な、なにが?」
「友達なの、あの人?」
「……」僕はイニチェの背中をみた。
「どうかな。わからない。友達、か……。うーん……」
「あの人、死んじゃうの?」
ぎょっとした。さっきの会話から、そう連想したのか。
「ま、まさか。どうしてそう思ったの?」
「……」少年は答えない。
「ミカ、いないね」
「……そうだね」
僕は背負っている少年が急に得体のしれないものに思えてきて、怖かった。
さらに一時間ほど探し歩いてから、一度元の公園に戻ることにした。
僕が少年をみつけたちょうどその場所に、一羽の黒いカラスがたたずんでいた。剥製のように微動だにしない。
「ミカ!」少年は叫び、僕の背中から飛び下りてミカに駆け寄った。
「ミカ、良かった。ごめん、ごめんね、ミカ。僕が悪かったよ……」
少年はミカを抱きしめてほおずりしながら泣いている。
ミカは、少年を一瞥したが、その後はじっと僕を見つめている。
つぶらな瞳が見つめている。
……なんだろう。ものすごく見覚えのある圧力を感じる。
と、視線を切って、ミカは少年に顔を擦りつけ、羽をばさばさと動かした。まるでなぐさめているようだ。
「うん、そうだね。ごめん、ありがとう、ミカ……。お礼を言わないと……」
少年は立ち上がり、こちらを向くと、ぺこりとお辞儀をした。
「一緒にミカを探してくれて、ありがとう、お兄さん」少年はちらりとミカを見て笑った。
「おかげでミカが無事に見つかりました」
「ああ、いや……」僕はあわてて手をふった。
「僕は何もできなかったよ。結局、ミカはここにいただけだし、余計なことだったと思う……」
「そんなことは……。あー……」少年は言いかけて、途中でやめた。
「お気持ちはうれしかったです」
大人のような気のつかわれ方をしてしまった。
「おいで、ミカ」少年が呼びかけると、ミカは少年の腕に止まった。
「ありがとう。それでは……」
少年は一礼して立ち去ろうとした。
けれど、僕は彼を呼び止めた。
「あの、ちょっといいかな」
「なんでしょう?」
「これも何かの縁なので、君の名前を教えてくれないか?」
「名乗ってませんでしたっけ……。すみません、うっかりして……」
「僕はクリム・ホワイト」自分も名乗っていないことに気づいて、あわてて言った。
「君は?」
「僕は……マリーナ。マリーナ・トルバ。それではまた、クリムさん……」
少年もといマリーナは一礼して、今度こそ去っていった。
なお、帰宅した僕が鬼の形相と化したベルさんに、世にも恐ろしい折檻を受けたことはやはり言うまでもないだろう。




