はがれゆく虚構、8
シャルロット様を殺すのがレオンハルトだと言った途端、シャルロット様は黙ってしまった。そのまま、数分間沈黙し続け、「どうやら僕はとんでもないことを明かしてしまったようだ」と頭の中で後悔にのたうち回っているうち、シャルロット様は突然立ち上がった。
立ち上がって正面を見たまま、突っ立っている。
「シャルロット様……? あ、あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」ふわふわとどこか上の空の様子でシャルロット様は言った。全然大丈夫ではなさそうだ。
「大丈夫だけど、帰りましょう。ベルが心配するわ」
「そうですね。……転移しますか?」
シャルロット様は首をふった。
「ううん。歩きたいから。クリムは先に帰っててもいいわよ、別に……」
「いえ、お供します」
「そう……」
シャルロット様はあいまいに返事をすると、歩き出した。
そのまま、僕たちは黙りこくったまま、屋敷まで戻った。
ベルさんはかんかんだった。
「いままでどこに行っていたのですか!?」
僕たちが玄関に現れるなり、ベルさんは心配そうにシャルロット様にそう尋ねた。
「ちょっとね」
シャルロット様は力なくそういうと、ベルさんをすり抜けて二階の自室へと階段を上っていった。
ベルさんは僕を振り向いた。
僕はまずいな、と思った。
「大丈――」
最後まで言えなかった。ベルさんの張り手が飛んできたからだ。
「ああ、失礼。つい、手が出てしまいました」ベルさんは悪びれもせず言った。
「何かあったのですか?」
「話さないといけないでしょうか……?」
「ほほう」ベルさんはバシッと右の拳を左の手のひらに叩きつけた。
「つまり、何かあったということですね?」
右手の次は左手でバシッ。また右手でバシッ。……という具合に、ベルさんは対戦相手に飢えた格闘家のように殴る準備運動を続けている。
「話したくないなら構いませんよ。ええ、構いませんとも」
しかし、彼女の拳は「構いません」とは言っていなかった。
「……話します」
僕は観念して、話そう――とした矢先だった。
呼び鈴が鳴った。
いや、「鳴った」というのは正確ではない。鳴り続けている。
ベルさんは盛大に「チッ」と舌打ちをした。
僕をにらみながら。
「どうせあなたの客人でしょう」
「言いがかりです」
「いいえ、そうに決まっています。シャルロット様にあんな無礼なご友人がおられるわけはありません」
「ベルさんのお友達では?」
僕がそういうと、ベルさんは僕の鼻を一つまみしてから、表に出ていき……すぐに戻ってきた。血相を変えて。
「あっ、ク、クリムッ、シャッ、シャルロット様をっ……!」
ものすごい慌てようだった。
「え……、どなたが来たんですか?」
僕がそういうと、ベルさんは一瞬呼吸を止めて、僕の顔をじっと見た。
その表情にはかすかに恐怖が混じっていた。
「殿下が……。ビスキュイ殿下がいらっしゃいました」




