はがれゆく虚構、7
「私がハッピーエンドにたどり着けない、ですって?」
シャルロット様は憤慨した。
僕たちは串焼き肉や、「シャルロット様が美味しそうと感じたあらゆる屋台料理」を買えるだけ買いこんで、人気のない公園に移動していた。公園といっても遊具は無い。うっそうとした並木道があって、木陰にところどころベンチがあるだけだ。
僕はうなずいた。
「はい、その通りです」
「失礼しちゃうわねえ」シャルロット様は肉をパンでサンドしたものをむしゃむしゃと頬張った。
「私ならハッピーエンドくらい、この手でつかむわよ」
「そうならない状況になるんです」
「あんまりわけわからないこと言ってると、マジでクビにするから」
シャルロット様は串を僕にひらひらと突きつけて言った。
「それ、怖いんですけど……」
「だったら、言葉には気を付けることね」
「無礼なことを言ったつもりは無いですが……」
「詳細は?」
「え?」
「詳細は、教えてくれないの?」
「ええと……」
ここまで話しておいて、なんだけれど、僕は迷っていた。
そもそも話すつもりなんてなかった。昨日まではシャルロット様にこの秘密を話すなんて考えもしなかったし。
だから、今も迷っている。どこまで話すべきか。
それでも、やはり、ビスキュイ殿下に関わりそうなこと……クーデターとかそういう話はやめておいた方がいいだろう。
下手すれば、シャルロット様が僕を警戒して、敵対してしまいかねない。
「できれば、伏せておきたいです」
「……ふうん、わかったわ」含みのある言い方でシャルロット様はうなずいた。僕はヒヤヒヤした。
「じゃあ、ハッピーエンドじゃない、って最後はどうなるの?」
「……? 最後、というのは……」
「わかるでしょ? どうやって、死ぬの? 誰かに殺されるの?」
「……どうしてそう思ったのですか?」
「なんとなく。やけに気まずそうだから」
「ああ……」僕は自分の顔をマッサージした。ポーカーフェイスは僕の売りだと思っていたのに。
「気にしなくても、気づく人は少ないわよ。私たち、けっこう付き合い長いでしょ?」
「……スクエラなら気づいたと思いますか?」
「気づくわね」シャルロット様は平然と言った。
「でも、気づいてても言わないんじゃない? あの子、お淑やかだから」
「お淑やかァ!?」思わず大声で聞き返してしまった。それも巻き舌で。
「あ……。し、失礼しました……。スクエラがですか?」
「そうよ」
「……僕が思い浮かべているスクエラと同名の別人とか……」
「あなたの元婚約者のスクエラちゃんよ!」シャルロット様は不機嫌そうに言った。
「あんまりスクエラちゃんのこと悪くいうと、許さないから」
「ファンか何かですか?」
「あの子は誰よりも一途じゃない。お淑やかじゃなきゃなんなのよ」
「おてんば?」
「……」シャルロット様はじろっと僕をにらんだ。
「わかりました」僕は両手をあげた。
「スクエラはお淑やかです。異論ないです」
「話を戻すけど」シャルロット様は袋をがさがさとひっかきまわし始めた。次に食べるものを探しているようだ。
「私は誰に殺されるの?」
「聞かない方がいいと思いますよ」
「へー、そう。……ってことは言ってもいい秘密なのね。あなた的には」
シャルロット様はいたずらっぽく笑いながら言った。その手にはキャンデーが握られている。
「気になるわ。教えてよ。今度会ったら眼飛ばさなきゃ」彼女はキャンデーを包んでいる紙をはがしながら言った。
「およそお姫様らしからぬセリフですね」
「お姫様成分はスクエラちゃんにあげてもいいわ」
「……」
あげるもなにも、最初からないのでは?
「……いま、失礼なこと考えたでしょう?」
「滅相もない」僕はそう答えつつ、頭を回転させた。
「レオンハルトです」
「え?」シャルロット様はキャンデーを持つ手を止めた。
「レオンハルトがどうしたの?」
「シャルロット様を殺すのは、レオンハルトです」
シャルロット様はキャンデーを落とした。




