はがれゆく虚構、6
シャルロット様の協力もあって、邪教徒へのアナウンスは順調に進み、今日だけで三十人ちかい邪教徒たちへ伝えることができた。
「今日はこれくらいにしましょう」僕たちは六回目のアナウンスを終えて、広場から王都へと戻ってきた。
「もうとっくにお昼を回っています。これ以上はベルさんが心配しますよ」
「それもそうね」シャルロット様は太陽の高さを確認した。
「ついでだから、どこかでお昼にしましょう」
「え? 早く帰った方がいいんじゃ……」
「いいからいいから。お腹すいちゃった。確かこっちに市場があったわよね?」
シャルロット様はすでにウキウキした様子だ。なるほどそうか。ベルさんは料理の腕に自信があるから、普段外食はしない。買い食いなんてもってのほかだ。まあ、別に禁止されているわけではないが、シャルロット様が買い食いなんてしようものなら、恨めしい目で彼女を見るだろう。
実に、恨めしい目で。
「串焼き肉! ほら! 串焼き肉が食べたいわ!」
僕はシャルロット様のあまりの無邪気さに苦笑した。
「本当にお好きですね、串焼き肉」
「え、そう?」シャルロット様はすでに串焼き肉の店主に硬貨を差し出している。
「めったに食べてないと思うんだけど」
「そうですが、一度にたくさんお召し上がりになりますから」
「……食いしん坊って言いたいのかしら?」
「滅相もない。とてもいいことだと思います」
「大食いであることは否定しないのね」シャルロット様は不服そうに頬をふくらませると串焼きを一本、僕に差し出した。
「はい、あげる」
「いいんですか?」
「食いしん坊の汚名はそそがないと」
「気にしなくてもいいと思いますが……」
それでもシャルロット様は串焼き肉をひっこめない。
僕は余計なことを言ったなと後悔しつつ、串焼き肉を受けとった。
「……」
シャルロット様はしばらく渡した串焼き肉をじっと見つめていたが、僕が食べ始めると視線をそらした。今度は自分の串焼き肉を見つめている。
「食べないんですか?」
「……スクエラちゃんとはどうなったの?」
むせそうになった。
「な、なんですか、藪から棒に……」
「キャルの手紙になんか色々書いてあったけど、よくわからなかったから」
「へえ、個別のお手紙もあったんですね」
「で、どうなったのよ」
ダメか。はぐらかされてはくれないか。
「別に、どうなったとかは無いですが……」そう言って、僕はぎょっとした。シャルロット様の顔が鬼のように変形し始めたからだ。
「で、でもまあ、心境の変化はありましたね……」
「へえ、どんな?」人間の顔に戻って、シャルロット様は尋ねた。
「評定は続きを聞いてから下しましょう」
閻魔様なのか……?
「えーと、それは……。あ、ところで、シャルロット様」
「なに?」
「キャリオ様のお手紙に、『本』がどうのこうの、っていう話って書いてありました?」
「なかったわ」シャルロット様は首をふった。
「クリムについて驚くべきことがいくつもあった、とは書いていたけど、本がどーたら、っていう話はなかった」
そうか。
なら、シャルロット様は「僕がこの世界の運命についての事前知識を得ている」ことは知らない、ということだ。
どうしよう。いずれはキャリオ様たちから聞く話だろうけど、僕から切り出す話でもないか。
うん。可能な限り、触れないでおこう。
「ああでも、火都でキャルが邪教徒に襲われた件の黒幕はクリムだった、みたいなことは書いてあったわね」
触れるしかなくなった。
っていうか、それ読んでて、なんで隣で平然と串焼き肉を頬張っているのだろうか……。
「あの、驚かないのですか?」
「驚いたわよ。でも、キャルが別に怒ってなかったから。私が怒るような話でもないのかな、って」
「スクエラについては怒るのに……?」
「……なんか言った、今?」シャルロット様はぎろっと横目で僕をにらんだ。
「いいえ、気のせいでは?」僕は冷や汗をふいた。
「ええと……、じゃあ、その黒幕がどうのっていう話は弁解しなくても、シャルロット様の好感度は下がらないってことでしょうか?」
「好感度ってなに?」
「執事をクビになったり」
「そうねえ。クビにはしないけど、ふとした拍子に頭に来るかも。その怒りをコントロールできなかったら、魔術とかぶっぱなしちゃうかもしれないわね」
「どのくらいの魔術ですか?」
「クロコダイルと戦ったじゃない?」
「めちゃくちゃ憎悪がこもってるじゃないですか! どうか、弁解させてください」
「仕方ないわね」シャルロット様はまだ残っていた肉をすべて平らげた。
「どこか静かな場所で話しましょう。ああ、もう一度串焼き肉を買ってからね」




