はがれゆく虚構、3
「ふうん、天使に依頼された、ねえ……」シャルロット様は羊皮紙の紙きれをひらひらしながら言った。
僕はシャルロット様と人気のない並木道まで移動した。人目に付く場所で人を殺すだのなんだのと言う会話をする度胸は、僕には無かったからだ。
すでに秘密はボロボロに露見してしまっている。いっそのこと全部シャルロット様に打ち明けて相談することにした。ただ、シャルロット様をダシに脅されている、という部分は伏せている。
「信じなくてもいいですよ」しかし僕はちょっと後悔していた。
「いきなりこんなことを打ち明けて申し訳――」
「あの小鳥が天使なのは知ってたけど、そんな勝手に動くとは思わなかったわねえ」シャルロット様は僕の謝罪をさえぎった。
「天使は殺せって言ってて、聖教会もまあ似たような感じか。誰かが掃討することは決まってて、私に片棒を担がせようとしてる」
「そうですね」
「殺せばいいじゃない」シャルロット様は僕にリストを突っ返してきた。
「なに悩んでるの?」
「人殺しだからですよ……」僕は思わずシャルロット様を横目でみてしまった。
「大問題でしょ」
「予告アリならオッケーって言ったのはクリムでしょ?」
「そりゃそうですけど……。その時はいいと思ったんですが、よくよく考えていたら、やっぱり……」
「人を殺したこと、あるんでしょ?」
「はい……」
「今までもそんな風に悩んできたの? それとも、今回は何か違うの?」
「それは……」
僕は思い返してみた。
今までに人を殺したことはある。全員邪教徒だった。ダンジョンに潜って、遺物を掘り返すときに遭遇すると、ほぼ間違いなく戦闘になる。最後まで戦うことなく、途中で逃げてくれたり、実力差があって殺さずに勝敗をつけられる場合がなかったわけではない。しかし、最後まで逃げず、それほど実力差もない場合は、相手が死ぬまで戦い続けることになった。
そして、そのようなケースは決して少なくなかった。
「今回は……『自分の意志で、殺しに行く』ってところが違います」
そう。たしかにダンジョンに潜って遺物を掘る行為にも「戦闘になるリスク」はあった。でも、今回ほど明確な決意を必要とはしなかった。
「ふうん」
シャルロット様の反応はあっさりしたものだった。
「で、どうするの? 自分の意志で人を殺すのが嫌だから、やめるの?」
「やめません。引くわけにはいきませんから」
「脅されてるの?」
「……」
僕は答えなかった。
「あっそ」シャルロット様は立ち上がり、ほこりをはたいた。
「まあいいけど。いずれにしても、じゃあ、もう問題は解決してるわね?」
「そうですね。……そうですけど、ああ……」
僕は頭を抱えてうめいた。
全然、覚悟が決まらなかった。
「もう、うじうじとだらしないわね。シャキッとなさい。私の執事でしょうが」
「わかってます。わかってますよ……」僕は立ち上がった。
「もう、いいです。罪悪感も正義感も、知ったことじゃない。やります。自分自身を説得している時間もないようですから」
「え、なにそれ……。覚悟は決まってないってこと? それ、ヤケクソってやつじゃないの……?」
「口が悪いですよ、シャルロット様」僕は苦笑した。
「さて……。では、お屋敷にお送りしますね」
「え?」シャルロット様は口をポカンと開いた。
「え?」僕も開いた。
「えーと……」シャルロット様は目をキョロキョロさせている。
「私が手伝ってあげてもいいんだけどなあ~……?」
「シャルロット様に手伝ってもらうわけないでしょ!?」
「叫ばなくてもいいじゃない」シャルロット様は困ったような顔で言った。
「帰ったらベルにも騎士団長にも小言をいわれるじゃない」
「間違いなく言われますね」
「だから帰りたくないのよ。先延ばしにしたいの」
「子供ですか」
「私、まだ十代だからね」シャルロット様は胸を張った。
「だから、なにしても許されるの」
「許されませんよ。第三皇女殿下」




