はがれゆく虚構、2
「なにしてるんですか、シャルロット様?」僕は呆れてため息をついた。
「どうして尾行なんて……」
「……」シャルロット様は少し頬をふくらませながら腕組みをしている。
「だって、なんか様子が変だったし……」
「先ほど、聖教会騎士団の方々とすれ違いましたよ」
「声をかけられてたわね」
「いいんですか? シャルロット様に会いにきたのに……」
「予約取ってないんだから、知らないわ」
「昨日、また来ますって言ってませんでしたっけ?」
「覚えてないわね」シャルロット様は悪びれもせずに言った。
「書面で送ってもらわないと」
「とにかく帰っていただきたいんですが……」
「どうして? 私には見せられないようなことでもするの?」
「まあ……、端的に言えば、そうです」
「私に言えないことなの?」
「はい」
「もう一度聞くわね」シャルロット様はずい、と僕に近づき、指を僕の鼻先に突きつけた。
「本当に……。ほんと~うに、私に言えないことなの、それは?」
「ショックを受けると思います」
「それは、クリムに対する印象が変わる、という意味?」
「……そうですね」
「ふん」
シャルロット様は鼻で笑い、髪を払った。しかし、それはほぼ空振りで、彼女は顔をしかめた。どうやら髪が長かったころの癖が残っているらしい。
シャルロット様は咳払いをした。
「今更だわ。あなたの印象なんかとっくに地の底よ。強いし、頭も切れるし、忠誠心もあるけれど、とんでもない色魔で、とにかく秘密が多い。そんなの――」
「え? し、色魔ですか? それは、どういう……?」
「そんなのはねえ」シャルロット様は僕の質問を無視した。
「もうわかってるのよ。それとも何? 今までの秘密だのなんだのをひっくるめて考えても、今からやろうとしてることはショッキングだってわけ?」
「わりと、そうですね」
「……記憶は戻ったの?」出し抜けにシャルロット様が聞いた。
「スカーレットに行く前の一か月分くらい、抜けてたでしょ」
「……」
答えに詰まった。
この状況でどう返答すべきか迷った。
それが仇になった。シャルロット様はため息をついた。
「戻ったのね」
「はい」僕は観念してうなずいた。
「戻っています」
「沈黙の密猟者はあなただった。そうね?」
「その通りです」
「それ以上の秘密なの? それ以上に、ショッキングだって、言うわけ?」
「……」
「邪教徒と関わりがあるってことも察してるし、あなたの歳でそれだけの魔術を使いこなしてるってことは、私では想像もつかないような修羅場を潜り抜けてきたんだろうってことも想像つくわ」
シャルロット様は淡々と言った。
「……誰かを殺しにでも行くのかしら?」
どうやら表情に出てしまったらしい。
シャルロット様は左の口角を少し上げて微笑んだ。
「図星ね」
「どうして……、どうして、わかったんですか?」
僕の狼狽ぐあいが余程おかしいのか、シャルロット様はくすくすと笑った。
「私たち、どれだけ長いこと一緒に暮らしてると思ってるの? いい加減、あなたの顔色から何考えてるかくらい、読めるようになってくるわよ」
「そ、そうでしたか……」
「ま、さっきのはただの鎌かけだったんだけどね」
「ひどい!」
思わず叫んでしまった。まったく、この人は抜け目がない。
「で? 誰を殺しに行くの? 邪教徒?」
僕はもう「お手上げ」だと思った。




