うごめく陰謀、7
しばらく二人としゃべっていると、イニチェが帰ってきた。
居間でおしゃべりしている僕をみて、かなり驚いていた。
「……次からここに来るときは、先に連絡しておいてくれないか?」
「あ、ごめん。尾行とかはされてないと思うけど……」
「お前、天使に目ぇつけられてるだろうが。それでよく言えるな」イニチェは苦々しげに言った。
「いや、違うな……。尾行とかそういう問題じゃなくて、単純にお前がここにいると、一瞬わけがわからなくなるんだよ。日常と非日常の、どっちがどっちかわからなくなる感じ。わかるか?」
「あー、わかるわかる」
「軽いな。本当かよ……。すげー怖いから、気にしてくれ」
「わかった」僕は微笑んだ。
「次からは気を付けるよ」
「気を付ける? 連絡するよって言わなかったということは、しないつもりだな?」
ぎくっ。
「そ、そんなわけないだろ。ただまあ、あらかじめ連絡できない場合もあるし、今日みたいに……」
「急用なのか?」イニチェは、買ってきた食材を冷蔵庫(もちろん電化製品ではない。氷の魔術で食材が腐りにくくなるという代物だ)につめこむ手を止めて、顔をあげた。
「何があった?」
「……」僕はユンとフロイに目をやった。
「二人は席を外してくれないかな。ちょっと……イニチェと二人で話がしたいんだ」
「わかりました」「えー」フロイとユンはリアクションこそ違ったが、二人とも席を立ってくれた。
二人が隣の部屋に行った後、イニチェは紅茶のカップを持ってこちらにきた。カップは一つだけだ。
「話を聞こう」
「……」僕は声に出さず、魔術で仮想物体の黒板に文字を転写して、見せた。
『君はビスキュイ殿下と関係があるのか?』
「……」イニチェは一瞬、こめかみをぴくっとひきつらせた。
「……ノーコメント、と言っても無意味か?」
「たぶんね」
「なぜわかった?」
「勘だね。本当はわかってなかった。さっきのはただの鎌かけだよ」
僕がそう言うと、イニチェは天を仰いで舌打ちした。
僕は次の質問を書いた。
『ビスキュイ殿下が何を企んでいるか、知っているか?』
「……」イニチェはしばらくあごに手を当てて考えていた。
「いや、知らない。内容までは」
「どうして、答えてくれるんだ?」
「……」しかし、今度はイニチェが黒板を取って、書いた。
『我々は協力関係にあるが、仲間ではない』
「なるほどね。……どうして話してくれたんだ? どうして今になって? なぜ今まで話してくれなかったんだ?」
「聞かれなかったからだ」イニチェはじっと僕の目をみて言い、続きを黒板に書いた。
『俺は、お前の仲間でもない』
「悲しいね」
「本当にそう思ってるか?」
僕は答えず、次の質問を書いた。
『君たちは殿下の洗脳を受けているか?』
「イエスだ」
『僕のことを話したか?』
「イエス」そう答えてから、イニチェは黒板に返事を続けた。
『俺が知っている情報は筒抜けだと思っていい』
「ちっ……」僕は思わず舌打ちした。
「とんでもないな、あいつ……」
「……」
イニチェは無言で僕をきつくにらんだ。
僕が「あいつ」と言ったことでユンとフロイに話題を勘繰られるのを懸念しているのだろう。過保護か。
「……」僕は少し考えて、黒板に質問を書いた。
『僕の仲間になってくれないか?』
「無理だな」イニチェは僕が書いている途中で声に出して言った。
「お前はシャルロット様を最優先事項に据えているのだろう? 俺はどうもあの姫様は信用できないし、そもそもお前のことも、お前が思っているほど信用していない」
「え、そうなの?」
「ああ。お前は理性的だし強いが、それがそのままお前の怖さでもある。合理的すぎるし、強すぎる。勇者だろうが、巫女だろうが、天使だろうが、結局は丸め込んで目的のために利用してるだろ。その結果、そいつらが死んでも、知らんふりを決めこむんだろ、お前は。……そんなの、仲間とは言えない。俺たちをそこに含めないでくれ」
「……」僕は黙って、イニチェが言ったことをよく考えた。
「……間違っては、ないね」
「お前の、そういうところも信用できないんだよ、俺は」
「キャリオ様は信じてくれたけど?」
「そういうところなんだよ」




