うごめく陰謀、3
イニチェたちの名前がリストに載っていることは、うすうす予想していた。
三人が王都に住んでいるのはずっと前からわかっていたから、ガブリエルが「王都に住んでいる邪教徒を一掃しろ」といってきたときに、それはもう必然的にそうなるだろうとわかっていた。ただ、認めたくないというか、そうじゃないといいな、と期待していただけだ。
予告……。ガブリエルに予告するとは言ったものの、具体的に予告ってどうやればいいんだろう?
イニチェに予告すれば、他の邪教徒たちにも予告してくれるだろうか。そんなに親切ではないか。
いや、仲間の生死がかかっているのだからやってくれる……?
いや、仲間に予告しなければ僕は殺さないだろうと考えて、無視を決め込むかもしれない。
やはり自分でやるしかない。じゃあ、一人一人訪ねて回るか?
信じてもらえるのか?
それを百人分も繰り返すのか……?
ああ、いかにも面倒だ。しかし、面倒だからと言って投げ出すわけにもいかない。かかっているのは人の命だし。
でも面倒なことには変わりない。ああ。いっそ王都のど真ん中で「これから邪教徒たちを一掃しまーす! 逃げたい人は逃げて下さーい!」などと叫んでしまえたらどれだけ楽か……。
そんなことを鬱々と考えていると、来客があった。外の呼び鈴が鳴ったのだ。
「こんな時間に誰ですか、まったく……」
昼食の仕込み中だったベルさんはキッチンから出てきてエプロンで手をふきふき、ぶつぶつつぶやきながら、玄関から出ていった。来客は基本的にベルさんの担当だ。交代で担当したこともあるのだが、僕はどうにも人見知りのクセが抜けていないらしい。お客が帰った後で、ベルさんに小一時間ねちねちと嫌味を言われたこともあった。
そんなベルさんが血相を変えて戻ってきた。
「クリム・ホワイト!」玄関扉を閉めるなり、ベルさんは大声で目の前にいる僕の名前を呼んだ。「シャルロット様の身支度を整えておきなさい!」
「誰が来たんですか? お客を放置していて――」
「早くしなさい!」そういうと、ベルさんはまた外に飛び出していった。
あまりにベルさんがあわてていたので、僕も段々焦ってきた。僕は誰も見ていないのをいいことに重力魔術で階段をすっ飛ばして、二階へ上がり、シャルロット様の部屋の前で急ブレーキして扉をノックした。
「どうぞ」シャルロット様の返事が聞こえた。
僕は扉を開けた。なぜか寝間着姿になっていたシャルロット様がむっと顔をしかめた。ベルさんだと思っていたらしい。
「……なにかあったの?」腕を組みながらシャルロット様は言った。
「来客です。身支度を整えてください」
「今日は誰も来ないはずでしょ?」シャルロット様は明らかに『身支度なんか整えたくない』という様子で髪をいじくっている。
「帰ってもらって」
「うーん……」
僕は外に目をやった。そちらを向いても壁があるだけだし、そもそも目隠しをしている僕の目には何も映らないのだが、魔術で『外に誰がいるのか』を知ることはできる。
「それは難しいと思います」
「なんでよ?」
「なんだか、外に行列ができてるんですよ」
「行列?」
「そうです。ざっと二十人くらいの……」
「うちは観光名所じゃないのよ。帰ってもらって」
「観光客じゃないですよ」
「じゃあ、誰よ。どこの暇人が二十人も徒党を組んでうちの前の通りを占拠してるの?」
「鎧を着た連中ですね」
「うーわぁ」シャルロット様は天を仰いで、露骨に嫌そうな声を出した。
「帰ってもらって!」
「ちなみにですが、人数は僕の魔術でとらえられる範囲内の話です」
「……つまり?」
「実際はもっといるはずです」
「本当に占拠してるじゃないの! なによ、何しに来たのよ!」
「シャルロット様……」僕はお辞儀をした。
「身支度を整えるお覚悟はよろしいですか?」
シャルロット様は盛大にため息をついた。
「わかったわよ。とりあえず着替えるから出ていって」
「僕は構いませんが」
「私が構うのよ! いいから出てけ!」




