暁の世界、3
通りすがりの人に病院の場所をきいて、スクエラを連れて行った。
医者に診てもらったところ「安静にしていれば数日で良くなりますよ」といってもらえた。スクエラとリズリーはホッとした様子だったけれど、僕は急に不安になってきた。
「そんなこと言って、明日になったら容体が急変してるなんてこと、ないですよね!?」
「話を聞く限り、失血による貧血で間違いないので、それは考えにくいかと……」
「大丈夫。大丈夫だから、クリム……」すでにベッドに横になっているスクエラは眠そうな声でいった。「静かにしてちょうだい……」
「でも……」
僕はそれでも心配だった。僕は一刻も早く王都に戻らなければならない。ベルさんの毒を治さなければならないからだ。
だが、その間にスクエラにもしものことがあったらと思うと、気が気ではなかった。
そんな僕の逡巡を察してか、リズリーが僕の肩をポンとたたいた。
「心配するな。俺がついてる。安心して行け」
「……」
「……演技でもいいから、もう少し安心したみたいな顔をしてくれないか? 傷つくんだが……」
「ご、ごめん」
しまった。どうもリズリーは活躍が地味なので、微妙に安心感というか、信頼感が持ててないんだよなあ……などと失礼なことを考えていると、リズリーが続けた。
「すぐにレオンハルトもキャリオ様も来る。俺だけじゃない。それなら安心できるだろ?」
「それもそうだね」
「……聞き分けがいいのは良いが、それはそれであっさりしすぎだ……」
注文の多い奴だな、と思った。
ともかく、僕はスクエラをリズリーと医者に預け、王都に戻ることにして、転移魔法陣のある教会へむかった。
キャリオ様にお別れの挨拶をせずに行くのは気が引けたが、イニチェたちだって挨拶をしていない。まあ、そのうち会えるだろうから、いいか。レオンハルトとの別れはそもそも気にしていない。
教会に行って、一番偉い人に会わせてもらった。見習いらしき下っ端は僕を不審そうな目でみていたが、シャルロット様に預かっていた袋いっぱいの寄付金をみるや泡を食って偉い人を連れてきてくれた。偉い人は、ひそひそ話で転移魔法陣の話をしたら揉み手をしながら案内してくれた。案内中、信者の数がどうの、雪がどうの、作物の出来がどうのと、ひっきりなしにしゃべりかけられて参った。こちらに来るときに彼に会わずに済んでよかった。
重畳転移でも、王都まで一気に帰ることは一応可能ではある。ただ、かなりの魔力を消費してしまう。せっかく弾倉に変換した魔力の半分以上が溶けてしまう。今後、これ以上に増やせる機会はないだろうから、温存しておきたい。
いや、シャルロット様にも正体がバレてしまっているのだから、いつでもカートリッジに充填してもらえばいいのか?
……いや、期待しない方がいいかもしれない。シャルロット様は僕の正体を知っていた事実を伏せていた。その動機がなにか、判明するまでこちらから正体をさらすような真似はしない方が賢明だろう。すでにビスキュイ殿下と通じていて、僕の正体についての情報が漏れてしまう可能性だって、無いとは言えない。
ちなみに、そこらへんのダンジョンへ行って、聖剣の力で魔力を補充する……というプランは成立しない。聖剣は魔力を尋常ではないほど消費する。アルテミスで【メッキの勇者】を発動しつつ、聖剣の力を使って魔力を吸収したとしても、低レベルのダンジョンでは吸収効率が追いつかない。スカーレットで吸収した感覚だと濃度レベルは6以上でなければならないだろう。王都からまともな魔力消費で転移魔術で行って帰ってこれる範囲にレベル6以上のダンジョンはない。
つまり、王都にいる限り、魔力を一気に補充したければシャルロット様に頼るのが一番、ということに変わりはないのだ。
しかしそのためには、僕が記憶を取り戻したことをシャルロット様に告げる必要がある……。堂々巡りだ。
この問題はいったん、棚上げしておこう。
「準備はよろしいですか?」
「はい」
偉い人の合図で、転移魔法陣の魔術が起動した。
僕は王都へ転移した。




