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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
アンエクスプロアド・スカーレットの報酬
234/277

深紅の世界、3

 魔王はレオンハルトを蹴とばした。レオンハルトはサッカーボールのように飛んでいって、壁に激突し、ボウリングの球のようにめりこんだ。

 それを合図に、僕たちは魔王に攻撃を仕掛けた。


「クリム!」イニチェが叫んだ。「俺たちはガードに専念するぞ! 俺はユンとフロイをガードする。お前はそっちの残りをガードしろ!」


「カバーする人数が違うけど」


「俺に、冗談を返せるような、心の余裕があると思うな!」


 イニチェは魔王の攻撃をガードしながら言った。一撃ごとに、彼の防壁はみるみる削られていくのが見えた。


「宵待(スリープ)っ」「コ、霜花(コールドバインド)……」


 ユンとフロイが、イニチェの後ろから魔術をかけた。魔王の足元が凍りつき、淡い紫色の霧が彼の顔のあたりを覆う。しかし、効果はほとんどないらしかった。魔王は素足だが、歩みを止めることなくばりばりと氷を砕いている。

 ところで魔王は顔こそ人間に近いものだったが、足はどちらかといえば獣に近かった。大型の哺乳動物……牛に近いだろうか。がっしりとした足に、もうもうと毛が生えていた。ただし、蹄はない。その点では霊長類に近いかもしれない。

 魔王は本物の殺意をイニチェたちにむけている。この三人を一括りとして、一番対処しやすいと踏んだのだろうか。


 魔王は今、僕に背を向けている。

 ……今なら、背後から【紫電剣(ミョルニル)】を攻撃を食らわせることができるのでは――。

 僕がそう思った瞬間、魔王はバッとこちらを振り向いた。


「お前、何を考えた?」


 僕はとっさに防壁を展開した。次の瞬間、魔王はこちらに剣を振り下ろしていた。


「仲間よりも勝つための算段か。天晴(あっぱれ)だ。素晴らしい。お前を最初に殺してやる……」


「……っ!」


 動けない。防壁に半分以上食い込んだ剣の重さで身動きがとれない。

 防壁で防げるなんて思っていなかった。そのまま避けれないと直感したから、防壁を犠牲にして少しでも剣速を落として、避けようと思っただけだ。

 甘かった。いなせるなんて考えたのが馬鹿だった。


「このくそ野郎!」


 スクエラの声がして、矢が三本、魔王の顔面めがけて飛んでいった。矢はそれぞれ、両目と口元に命中したが、瞬(まばた)きではじかれ、前歯でキャッチされてしまった。

 魔王は矢をばりばりと嚙み砕き、ぺっと吐いた。


「用心しすぎた……。この分では瞬きもいらぬようだな……」


「あっそう! まだ攻撃は済んでないけど!?」


 スクエラは懐から一本の魔剣(ナイフ)を取り出すと、自分の腕を切り裂いた。血がナイフの刀身を濡らす。


「……?」


「呪われろ、魔王! 【移動速度半減(カースダウン)】!」


「お……」魔王は自分の手をみつめた。剣を持っていない方の手だ。「いやに重いな……」


「お前は呪われた!」スクエラは笑った。「もう自由に動けないわよ!」


「……」


 魔王は不愉快そうに眉をひそめ、腕を動かして何かを確かめている。

 僕は相変わらず、魔王の斬撃の脅威から抜け出せずにいた。頼みの綱のレオンハルトはまだ壁に埋まったままのようだった。

 やがて魔王は、なんらかの結論に達したらしい。ふん、と鼻を鳴らした。


「なにかと思えば、ただ私の行動に負荷をかけるだけではないか」


「……どういう意味?」


「お前の呪い、とやらは私の移動を制限するものでは、ない……。移動にかかる魔力や体力の消費を倍化させるという、ただそれだけのものだ。動けなくする魔術ではない。対処法は簡単。魔力を多く消費すればよい。……さて、」


 魔王はスクエラに結論を突きつけると、あらためて僕に向き直った。


「お前は辞世の句を考えたか……?」


「剣を引っ込めてほしいな」


「それがお前の辞世の句だ。つまらぬ。残すに値しない……」


 魔王は両手で剣をもつと、それをぐいと引いた。僕の防壁はダンボールにノコギリでも引くように、がりがりと削れた。紅の刃が僕の左肩に触れた瞬間、なにがなんだかよくわからなかった。

 斬られたのか、と思ったが、しかし妙な感覚だった。痛みはほとんどなく、なにかが触れているのはむしろ……右半身だった。


「うっ、あぐっ……」


 僕が事態に気づいたのは、スクエラがそんな声を出したのとほぼ同時だった。

 僕は床に這いつくばっていたのだ。

 僕が振りかえると、見慣れた色が増殖していた。色というのは紅で、増やしているのはスクエラだった。彼女はさっきまで僕がいた場所に両手を突き出す形でそこにいて、苦痛に顔をゆがめていた。しかし、最も目を引いたのはそこではなかった。


 スクエラの手首から先がなくなっていた。

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