夜の世界、9
最深部に到達した。
正確には、最深部の少し手前だ。
魔力が最も濃くなる地点まで来ると、そこには一つの門が立っていた。
古いダンジョンによくあるタイプの門だ。古代の魔術師が最深部の魔物を閉じこめておくために作ったものに似ている。
それにしても、なんだか……。
「どうしたの、クリム」スクエラが僕の顔をのぞきこんでいた。
「なにが?」
「難しい顔してる。変な所でもあるの?」
「なにっ」レオンハルトが耳ざとく聞きつけた。「またトラップか」
「いや、そういうのじゃなくて……」僕はレオンハルトの手を払いのけた。「なんだか、見覚えがあるから……」
「『本』で見たんだろう?」
「そうじゃなくて……。もっと、つい、最近、こういう門を見たような気がするんだ……」
「別のダンジョンの門ということか?」
「たぶん……」
「記憶喪失のときに見たってことじゃないの?」
「そうなんだろうけど、ダンジョンなんかにわざわざ行かないと思うんだけどなあ……」
「……」
スクエラとレオンハルトは変な顔で黙った。
「なんで黙るの?」
「だって説得力ないもん……。秘密が多すぎて……」
スクエラの言葉にレオンハルトはうなずいた。
僕は少なからずショックだった。レオンハルトはともかく、スクエラまでそんな風に思っていたとは……。
「で、門に見覚えがあるから、なんだっていうんだ?」とレオンハルト。
「あ、いや、見覚えがあるってだけだよ」
「……本当だな?」
「本当だよ」僕はちょっとうんざりしてきた。「ついでにいうと、この奥にボスがいる。そいつを倒さないとここから出られないよ」
「他にスカーレットから出る方法は?」
「ない」
「嘘ではないようです」キャリオ様が小さく手をあげながら近づいてきた。「エルもここが最も魔力の濃い場所だと言っています。その門から漏れていると」
「……やはり全員で行くのか?」
「それが一番確実だよ」僕は言った。
「だが……。レベル9の魔王なんだろう? 全員無事に戻ってこれるのか?」
「全員で行けば勝てる。誰が死のうとも、怖気づかずに戦えば勝てる」
視界の端でユンとフロイが怖がって、イニチェの後ろに隠れるのが見えた。
「囮にでもするような言い方だな」レオンハルトはささやくように言った。ユンとフロイに聞こえないように、という配慮だろう。「戦えるメンバーだけで行っても勝てるんじゃないのか?」
「……勝てば、【霊薬】が手に入る。それを使えば、死んですぐなら、生き返らせることも可能だ」
「初耳だ」
「初めて言ったからね」
「お前……」レオンハルトは僕をにらんだ。「いまのは、本当なのか? 口から出まかせを言っただけじゃないのか?」
「……。それは、そこの天使ならわかるんじゃない? 僕が……どれくらい嘘をついたのか」
「……半分だ、とエルは言っています」キャリオ様はうなずいた。
「ほらね?」
「ほらね、じゃねえ」とレオンハルト。「どこがどう、嘘なんだよ」
「死んですぐなら、生き返らせることは可能だ」僕はエルを見ながら言った。「この言葉は嘘かな?」
「真実です」キャリオ様はうなずいた。
「そう。これは、僕にとっては、真実だ。それを天使が証明してくれた……。じゃあ、天使は? 天使にとって、この言葉は真実なのかな?」
「どういう意味ですか?」
「僕の言ったことは、可能なのかな?」
「……お前がやろうとしていることが不確定だ、と言っています」
「不可能かな?」
「……黙ってしまいました。答えません」
キャリオ様が困惑したようにいった。エルは僕をじっとにらんでいる。
鳥の表情を読むのは決して得意ではないが、少なくとも尋常ならざる敵意のようなものを感じた。牽制するような魔力が飛んできたからだ。
僕は嬉しくなった。笑わないようにするのが難しかったほどだ。
「……死んでも、生き返らせることは可能、なんだな?」レオンハルトは念を押してきた。
「勝てばね」
僕がうなずくと、レオンハルトは目をつぶり、およそ一分間黙った。
「……全員だ」一分後、レオンハルトはいった。「全員で最深部に突入し、ボスを倒す。誰が倒れようとも、とにかく戦え。手を止めるな、戦え。勝てば、死んだ仲間も生き返る。死力を尽くせ。……これでいいんだな、クリム」
レオンハルトは僕をにらんだ。僕は微笑んだ。
「ああ。素晴らしいよ、レオンハルト」




