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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
アンエクスプロアド・スカーレットの報酬
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夜の世界、2

 見渡す限りの雪原ではあったが、ひときわ魔力が濃くなっている方角があったので、そちらに向かって移動することにした。根拠はない。そちらへ行けばレオンハルトたちと合流できるという確証はない。そんな取り決めはしなかったし、レオンハルトたちが向こうに出るはずだとか、むこうを目指すと決まっているわけではない。

 ただ、それ以外に目印がないだけだ。きっとレオンハルトたちも同じことを考えてくれるはず、という希望的観測だけで進んでいる。


『こっちに進むよ』



 僕は一枚も葉のついていない枯木林を指さした。痩せた木ばかりだが、気休め程度にはなるだろう。

 スクエラは「わかったわ」と声を出さずに言った。フロイは不安そうにうなずき、ちらりとスクエラの左腕をみた。

 気に病んでいるのだろうな、と思いつつ、僕は林に向かって進んだ。大丈夫そうだったので、スクエラたちに合図した。それをみて二人が足跡を殺しつつ走ってきた。

 小物の魔物がいないか警戒しながら、林の中を進んでいく。


 だいたい三時間くらい移動しているだろうか。僕は一人でダンジョン攻略していたことがあるから、久しぶりではあるけど、平気だ。危険な環境だが、自分なりに神経をすり減らさないコツというものを心得ている。スクエラも似たようなもののようだ。ケガをしているけれど、目が合えば微笑むし、フロイのことも気にかけているようだ。

 しかし、フロイは見るからに疲れているようだった。イニチェと一緒に暮らしているとはいえ、こんな恐ろしい場所に身一つで放り出されるような経験は少ないだろう。おまけに、常日頃一番頼りにしているイニチェもいないのだ。心細いに決まっている。


 ここに落ちることになった経緯について少し触れておこう。

 あまり詳しいことは聞けていないのだが、ユンとフロイはどうやら少しふざけていたらしい。トラップの入り口の前で、ユンが足元に落ちていた棒切れを拾って投げる遊びを始めた。フロイは止めたんだけれど、ユンは二三回、それをやって、ついにイニチェ様に怒られた。そのあたりで、フロイが狼型の魔物に襲われたらしい。かすかな気配がして振り向いたらそいつがいたから、とっさにリュックを盾にしたそうだ。「さもなければ首に嚙みつかれていたと思う」とフロイは言った。

 イニチェは魔物に気づいたらしい。彼の殺気を感じた途端、狼型の魔物は何を思ったのか、フロイをくわえたまま入口にむかっていった。魔物は入口について知っていたのではないだろうか。そこから中に入って、着地してからじっくりフロイを食べようと考えたか。あるいはただ単に逃げ道と認識したのか。もはや確かめようのないことだが。

 あとは、僕も見た通りで、スクエラはフロイについていき、僕も二人を追いかけた。


「トラップって言ってたけど、結局どういうトラップなの?」休憩中にスクエラは言った。


『まず高所からの落下。次にほぼ目印のない広大な雪原に置き去りにされること。しかも高レベルの魔物しかいないような所にね』


 理由は違うけれど、ここは深海によく似ている。魔力の濃度が極めて高い深海。魔力は魔物にとってのエネルギー源の一つだが、ここはあまりに濃度が高すぎて魔物にとっても有毒なのだ。だからこの濃度に適応した魔物しか残っておらず、数が少ない。数が少ないから代謝を遅くしたり、獲物をみつければどこまでも追いかけたり、一度にたくさん食べられるように進化しているはずだ。


「それってトラップなの?」とスクエラ。


『トラップだよ。一度でも戦闘になったら、終わりなんだよ。僕たちの位置がバレて、魔物が寄ってくる。ここの連中はそろいもそろって飢えているはずだから、魔物は次から次へとやって来る。ていうか、魔物を捕食するために他の魔物が寄ってくる。倒しても倒してもキリがないんだ』


「なるほど……」フロイは神妙な顔でうなずいた。


「……?」スクエラは変な顔をした。


 スクエラはどうやら納得できていないらしいが、僕は何も言わなかった。フロイの前でお姉さんぶりたいのではないだろうか。

 危機感を持ってもらうために「遠くにずっと僕たちをつけているやつがいる」ということを付け加えようとして、思いとどまった。言っても仕方ない。不安にさせるだけだ。


 そいつのことに気づいたのは、二時間ほど前のことだ。ずっと遠くの方に、なんとなく嫌な気配があって、それがずっと消えないのだ。視界の端が曇ったような違和感がずっとあって、それが移動していることに気づいて、ようやくつけられていることがわかった。

 痕跡はできる限り残さないようにしていたはずだ。

 スクエラの血が垂れていないことは何度も確認したし、足跡は定期的に重力魔術で途切れさせているし、スクエラが持っていた魔物の鼻を利かなくする香を焚いて置いてみたりもした。

 それでも追ってきているところをみると、なにか人間にはわからない感覚を指標にしているのかもしれない。

 一気に距離を詰めてこないところをみるに、追手も僕たちの正確な位置までは把握していないはずなのだ。

 追手が僕たちを「逃がさない」ように追いかけてくるなら、僕たちも「追いつかれない」ように逃げればいいだけ……。

 きっと、そのはずだ。

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