紅い世界、3
「え、僕?」僕はちらっとイニチェたちをみた。「邪教徒より僕の方が疑わしいってこと?」
「疑問の数でいえば、お前の方が断然多い」レオンハルトは苦々しげに言った。
「あの仮面はなんだ?
なぜ正体を隠す?
なぜ【紫電剣】を持っている?
お前は、何者だ?
なぜ俺たちに黙っていた?」
「はーい」すかさずスクエラが手をあげた。「私は知ってました!」
「は?」レオンハルトはいぶかし気な目をスクエラにむけた。「なぜ俺たちに言わない……。いや、お前なら、クリムの肩を持つか……」
「その通り!」
スクエラは堂々とブイサインしてみせた。
僕には到底持てないようなクソ度胸である。
「あのぉ……」キャリオ様がゆっくりと手をあげた。「実は私も怪しいとは思っていました……」
「マジか……」とレオンハルト。
「マジです」キャリオ様もブイサインした。「火都で助けてもらった時に、怪しいと思っていました」
「根拠は?」
「セクハラですか?」キャリオ様はかすかに赤面して聞き返した。
「なぜそうなる?」
レオンハルトはややたじろいで、肩をすくめた。
真面目に追求しようとしていたらしいが、女性陣が茶々を入れてくれたおかげでそんな空気ではなくなってきていた。
「ありがとう、スクエラ、キャリオ様」僕は感謝の意を表明した。「今度マッサージしてあげますね」
「ホント?」スクエラは嬉しそうに笑ってくれた。「わーい、クリムにマッサージしてもらうの、けっこう久々よね?」
「うん。火都でやったきりかな?」
「何か月ぶりかよね。いやあ、一度でもあれやってもらったらもう、病みつきになるから困るのよ」
「帰ったら……」そういいかけて、やめた。ここはスカーレットだ。いつ、誰が死ぬかもわからない。僕もスクエラも例外じゃない。「いや、今やっておく?」
「いえ。いいわ。恥ずかしいし」スクエラはそうキッパリ言った。
「え? そう……?」
……僕のマッサージって恥ずかしいものなのか?
「あ、あのぅ……」キャリオ様がもじもじしている。「私もマッサージしてくださるのですか……?」
「? はい。そういったつもりですが……。お嫌でしたら、もっと別の……」
「いえ!」キャリオ様はぶんぶんと首をふった。「文句などありません! ありがたいです! 楽しみにしておきます!」
「はあ、それは、どうも……」
僕がキャリオ様のリアクションに首をかしげていると、スクエラと目があった。さっきまでの上機嫌とは打って変わって、裏切者をみるような目に変わっていた。
「……」スクエラはじーっと僕をにらんでいる。
「な、なに?」
「なんでもないわ」
スクエラはぷいと顔をそむけた。
明らかに「なんでもなくはない」が、それを追求しようと考えを巡らせている隙に、レオンハルトが割り込んできた。
「一つだけ、聞かせてくれ、クリム」
「どうぞ」
「何も言えないのは、お前が、邪教徒たちと関わりがあるからか?」
レオンハルトはイニチェたちを指さして言った。指で刺されても、イニチェは瞬き一つしなかったが、ユンとフロイは表情を曇らせてイニチェの服を引っ張る力を強くした。たぶん、袖が伸びてしまうだろう。
「……」
「どうなんだ?」
「関わりは、ゼロじゃないな」
僕はゆっくりと言った。ちらりとキャリオ様の肩に乗っている小鳥をみる。あの天使は嘘を見抜いてくる。下手に嘘をつくわけにはいかない。
ぶっちゃけ、真実をほぼ全部伝えたとしてもレオンハルトは納得してくれる……というか飲み込んでくれると思う。僕は邪教徒たちと同類というわけではない。ただ、一部の邪教徒と利害関係にあり、彼らの魔術を多少知っていて、時々アジトから魔術書や魔剣を強奪していただけだ。ここらへんは知られても問題ない。
ただし、利害関係にある邪教徒というのが、目の前にいるイニチェだということだけは知られてはいけない。そうなれば、またレオンハルトが感情的になってしまい、話がどう転ぶかわからなくなる……。
レオンハルトは目を細めた。嫌な予感がした。
「じゃあ」レオンハルトはイニチェを指さした。「こいつとは知り合いか?」
「……」
終わったな、と僕は思った。
まったく、レオンハルトの勘の鋭さにも困ったものだ。




