白い世界、8
強烈なめまいと耳鳴りに襲われた。
おそらく、急激な魔力濃度の上昇で、身体がショックを受けたのだろう。
僕は目はみえないが、魔術で視界を得ている。通常の視覚と同じ脳の領域に、直接画像情報を流しているような感じだ。だから、その領域での脳の処理が追い付かなくなれば、一時的に目が見えなくなる……。つまり、僕も普通にめまいを起こす、ということだ。
「全員、いるか?」
めまいと耳鳴りがおさまってきたころ、レオンハルトの声が聞こえた。
「いるよ」僕は答えた。
「ああ」とリズリー。
「います」とキャリオ様。
「……スクエラ?」これは僕だ。
手をつないでいたはずの、スクエラがいなかった。
『スクエラから目を離してはならない』
脳裏に、あの本の文字が浮かんだ。僕は限界まで空間把握の魔術を使っ――。
「この雪、なに? なんでこんなに紅いのかしら……?」
振りかえると、スクエラはそこにいた。
少し離れたところで、かがんで雪を手に取っている。
「スクエラ、もう、びっくりするじゃないか……」
「? なんて? なにか言った? よく聞こえなくて……」
どうやら耳鳴りがひどくて、レオンハルトの声が聞こえなかったようだ。そんな状態で、どうして手を離して雪遊びをしようと思ったのかはわからないが……まあ、スクエラなら特に不思議はないな、と僕は思った。
スクエラの無邪気な顔をみて、みんなもほっと胸をなでおろしたようだった。
ともあれ、全員無事に【未踏の紅】の中に入ることができた。
紅い。
ひたすらに紅い景色が広がっている。地面には雪が積もっているが、さっきスクエラが言っていたように、紅く染まっている。一部分だけではない。すべての雪がそうなのだ。足元の雪も、いままさに降っている雪も紅い。
内側からもオーロラはみえる。これも当然だが紅い。
見上げれば、オーロラに切り取られた円形の空だけは、厚く雲が垂れこめていて薄い灰色に沈んでいた。
「……」
レオンハルトは周囲を見回して、顔をしかめた。
「魔力が濃いな……」
「ついさっき拡大したので、これでも薄まっていると思います」僕は答えた。
「これで薄いのですか?」キャリオ様が泣きそうな声でいった。「私、まだ頭がくらくらするのですが……」
「大丈夫よ、キャル」スクエラはキャリオ様の手をとった。「私もだから……」
「休憩はできないのか?」リズリーは僕とレオンハルトをみた。「危険なんだろうが……」
「危険です」僕は言った。「ここはもうさっきまでの雪山ではありません。いつ、どこから魔物に襲われてもおかしくありません」
「安全な場所というのは、どこだ?」レオンハルトがいう。「あるといっていただろ」
「ええと、それは……」
「どこにある?」
僕は悩んだ。これを言うべきだろうか。
いや、わかっている。おそらく言うべきではない。
言えば、みんなを不安にさせる。ついでに僕も責められる。
しかし……いつまでも隠し通せるわけはない。というか、今言わないのはあまりにも不自然だ。
言うしかないのである。
「どこにあるんだ、クリム?」
「えーと……忘れちゃいましたね」
このあと、みんなから一発ずつ殴られたことは、いうまでもない。




