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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
アンエクスプロアド・スカーレットの報酬
212/278

白い世界、8

 強烈なめまいと耳鳴りに襲われた。

 おそらく、急激な魔力濃度の上昇で、身体がショックを受けたのだろう。

 僕は目はみえないが、魔術で視界を得ている。通常の視覚と同じ脳の領域に、直接画像情報を流しているような感じだ。だから、その領域での脳の処理が追い付かなくなれば、一時的に目が見えなくなる……。つまり、僕も普通にめまいを起こす、ということだ。


「全員、いるか?」


 めまいと耳鳴りがおさまってきたころ、レオンハルトの声が聞こえた。


「いるよ」僕は答えた。


「ああ」とリズリー。


「います」とキャリオ様。


「……スクエラ?」これは僕だ。


 手をつないでいたはずの、スクエラがいなかった。

『スクエラから目を離してはならない』

 脳裏に、あの本の文字が浮かんだ。僕は限界まで空間把握の魔術を使っ――。


「この雪、なに? なんでこんなに紅いのかしら……?」


 振りかえると、スクエラはそこにいた。

 少し離れたところで、かがんで雪を手に取っている。


「スクエラ、もう、びっくりするじゃないか……」


「? なんて? なにか言った? よく聞こえなくて……」


 どうやら耳鳴りがひどくて、レオンハルトの声が聞こえなかったようだ。そんな状態で、どうして手を離して雪遊びをしようと思ったのかはわからないが……まあ、スクエラなら特に不思議はないな、と僕は思った。

 スクエラの無邪気な顔をみて、みんなもほっと胸をなでおろしたようだった。

 ともあれ、全員無事に【未踏の紅(スカーレット)】の中に入ることができた。


 紅い。

 ひたすらに紅い景色が広がっている。地面には雪が積もっているが、さっきスクエラが言っていたように、紅く染まっている。一部分だけではない。すべての雪がそうなのだ。足元の雪も、いままさに降っている雪も紅い。

 内側からもオーロラはみえる。これも当然だが紅い。

 見上げれば、オーロラに切り取られた円形の空だけは、厚く雲が垂れこめていて薄い灰色に沈んでいた。


「……」


 レオンハルトは周囲を見回して、顔をしかめた。


「魔力が濃いな……」


「ついさっき拡大したので、これでも薄まっていると思います」僕は答えた。


「これで薄いのですか?」キャリオ様が泣きそうな声でいった。「私、まだ頭がくらくらするのですが……」


「大丈夫よ、キャル」スクエラはキャリオ様の手をとった。「私もだから……」


「休憩はできないのか?」リズリーは僕とレオンハルトをみた。「危険なんだろうが……」


「危険です」僕は言った。「ここはもうさっきまでの雪山ではありません。いつ、どこから魔物に襲われてもおかしくありません」


「安全な場所というのは、どこだ?」レオンハルトがいう。「あるといっていただろ」


「ええと、それは……」


「どこにある?」


 僕は悩んだ。これを言うべきだろうか。

 いや、わかっている。おそらく言うべきではない。

 言えば、みんなを不安にさせる。ついでに僕も責められる。

 しかし……いつまでも隠し通せるわけはない。というか、今言わないのはあまりにも不自然だ。

 言うしかないのである。


「どこにあるんだ、クリム?」


「えーと……忘れちゃいましたね」


 このあと、みんなから一発ずつ殴られたことは、いうまでもない。

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