白い世界、4
「今から、【未踏の紅】について、僕が知っていることを話します」
僕がそういうと、レオンハルト、キャリオ様、リズリー、スクエラの四人は無言でうなずいた。
僕は、スカーレットについて、知っていることをいくつか伝えた。
・スカーレットに侵入するためには五人以上で同時に入る必要がある。
・侵入すると、魔王を倒すまで外に出ることはできない。
・スカーレットはダンジョンにしては広大だが、せいぜい大きな町程度の広さしかない。
・スカーレットは三層に分かれている。すなわち、表層、中層、最深部。
・魔王は最深部にいる。
・聖剣もそこにある。
・僕が欲しいものもそこにある。
僕が話し終えると、レオンハルトは困惑した表情で口を開いた。
「それは……本当なのか? どうやってそんなことを知ったんだ……?」
「聞かない約束ですよ」僕は微笑んだ。まあ、予想はしていた反応だった。
「それはそうだが……なんというか、あまりにも……」
「まるで一度は行ったことがあるかのよう?」
そういうと、レオンハルトはうなずいた。他のみんなも同じような様子だった。
「そうだ」
「気になる」スクエラがぽつりといった。悔しそうに僕をじっとにらんでいる。「気になるわ。秘密にはしてていいけど、もやもやする」
「大変だね」
「もやもやするっていってるじゃない!」
スクエラは立ち上がって襲いかからんばかりだった。キャリオ様は「まあまあ」とはいっているが、いうだけだ。というか「スクエラさんが暴れてくれたら話してくれるかも?」と期待しているような気配さえ感じた。
「わかったよ」僕は肩をすくめた。「でも秘密にするって約束だからね。本当のことは言わないよ」
「本当のことを言ってよ」すぐにスクエラがいった。「じゃなきゃ納得できない」
「秘密にしてていいって言わなかった?」
「言ってない」
僕は苦笑した。いっていることがめちゃくちゃだ。
僕は十秒ほど考えてから、話し始めた。
「子供の頃……家に書庫があったんだ。スクエラも覚えてるよね?」
そういうとスクエラはこくりとうなずいた。目が驚きにみひらかれていた。
「あった。あったわ」
「そこに一冊の本があった。タイトルのない本だった。ある日、僕はたまたまその本を開いて……本の中に吸い込まれたんだ」
「それは本当か?」レオンハルトがいった。
「それ、重要?」
僕がそう聞くと、レオンハルトは不服そうに口を曲げたが、それ以上はいわなかった。
僕は続けた。
「それで……僕はその中でレオンハルトだった」僕はレオンハルトをみた。彼は黙っていた。「僕はレオンハルトとして、冒険した。いろんな町、いろんなダンジョンにいって、たくさんの敵と戦った……」
僕はそこで少し言葉を切った。なんだか色々思い出してしまう。長くなってしまいそうだったので、はしょることにした。
「長くなるから間は省くけど、最後の方にはスカーレットにも行ったんだ。そこで【暁の聖剣】と【霊薬】をみつけた」
「だからスカーレットなのか」レオンハルトがいった。「エリクシルとやらでベル嬢の病を治そうというんだな?」
「そう」僕はうなずいた。
「ええと……」キャリオ様が困惑したようにいった。「今の話を聞く限り、執事さんも【預言巫女】ということになるのではないかと、私は思うのですが……」
「いいえ、違います。違いますけど……、巫女ってそういうものなのですか? 天使をつれてないと巫女じゃないと思ってたんですけど……」
「フォルトゥーナは運命をつかさどる神です。未来についての知識を持っているのが、巫女だと思っています。だからあなたも巫女と呼べるかと」
「なるほど。僕、男ですけどね」
「……私の目の色を知っているのですか?」キャリオ様は僕の軽口を無視した。「私たちの物語を読んだというのなら、わかるのでは?」
僕は返事をする前にレオンハルト、リズリー、スクエラをちらりと見た。三人ともキャリオ様ではなく、僕をみている。
そうか、もう知っているのか。なら言ってもいいな。
「白です」
「マジか……」レオンハルトがうめいた。「俺だってつい最近知ったのに……」
恨めし気に僕をにらむレオンハルトをしっしっと追い払って、僕は言った。
「持っているはずのない知識を、僕が持っているということ、これでわかってもらえましたか?」
「今の話、どれくらい本当なの?」スクエラが手をあげた。「っていうか、ちょっと待って。本を読んだのって、それ……いつの話?」
「だいたい本当だよ。説明が難しいんだけど……。どれだけ説明しても、君にはわからないと――」
「いつの話?」スクエラは繰り返した。
「五歳くらいかな。察しはついてると思うけど」
「……だからシャルロット様に執着するようになったのね?」
スクエラは納得したような、放心したような様子で、肩の力を抜いたようだった。……が、すぐに何かに気づいたように小さく声を漏らした。
「あれ? でもクリム、それよりずっと前から絵を描いてたよね? あれもシャルロット様だったんじゃあ……」
「あー……」
痛恨のミスだ。まずい。どうしよう。
転生について、話すしかないのだろうか。いや、そんな死生観をぶち壊すようなこと、口にしたくない。でも――。
「もういいだろう」ずっと黙って聞いていたリズリーがいった。「なぜ知っているかを聞かないという約束だったのに、これだけ話してくれたんじゃないか。二人とも、これ以上、困らせるな」
「困らせたつもりは、ねえよ……」とレオンハルト。
「だって、気になるし……」とスクエラ。
二人はもごもごとなにやらいっていたが、それ以上追及してくることはなくなった。
「ありがとう」
僕がいうと、リズリーはほんの少しだけ微笑み、「気にするな」と僕の肩をぽんぽんと叩いた。
痛かった。




