↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
アンエクスプロアド・スカーレットの報酬
207/277

白い世界、3

【未踏の紅(スカーレット)】は、未踏破のダンジョンだ。スノータウンから百二十キロほど北上したところには、深紅の迷宮と呼ばれていたダンジョンがあった。

 十二年前に【深紅の悪魔(イービルクリムゾン)】という名の魔王――レベル9に到達し、人の言葉を理解できるほどの知性をもった魔物――が現れて、ダンジョンの一部を破壊。周辺一帯に結界をはって魔力濃度が下がらないようにし、事実上ダンジョンを大幅に拡大した。数多くの人々をその領域に閉じこめて……。

 これが深紅の迷宮の暴走……俗に【血の閉幕(カーテンコール)】とよばれた事件だ。キャリオ様が二番目に預言した事件でもある。


「スカーレットについて、どれくらい知っているんだ?」レオンハルトはそういって、僕をにらんだ。「秘密はなしだ。タネも仕掛けもな」


「あー……、えーっと……」


 そういわれて僕は悩んだ。そりゃそうだ。今から僕たちはまさに命がけの危険地帯に行くのだから。

 たしかに僕はスカーレットについて、みんなが知りようもない知識を持っている。それは、前世で【バッドエンドは猫も食わない】をプレイした記憶があるからだ。僕は、スカーレットについては、記憶がある。さんざんやりこんだダンジョンだ。地形から出現する敵まで……全部とは言わないが、まあそれなりに覚えている。

 問題は、その「知りえない知識をどうやって知ったのか?」という問いに僕が決して答えることができない、というところにある。

 僕だって、いいたい。ここをこうやって、こうやれば、クリアできるよ、といいたい。だって、いわないとレオンハルトの言うとおり、マジで誰かが死ぬから。

 一応、弁明しておくと僕は「言うか言わないか」では悩んでいない。そうではなく「どうやって伝えるのか」で悩んでいるだけだ。


「レオ、クリムを責めないで」スクエラが僕をかばうように隣に立った。「クリムは秘密が多いけど、好き好んで隠してるわけじゃありません。責めないでください!」


「ありがとう、スクエラ……」


「きゃっ!? 耳元でささやかないで!」


 思わず胸が熱くなってお礼をいうと、スクエラは照れ隠しに僕にビンタをくれた。痛かった。

 それをみてレオンハルトが肩をすくめる。


「仲がいいのはけっこうだが、それくらいじゃあ誤魔化されてはやれないな」


「じゃ、じゃあ、キス!? キスすればいいのね!? それなら誤魔化されてくれる!?」


「えっ!?」


 まさかの発言に僕は度肝を抜かれた。気づけばスクエラに腕をつかまれていた。思ったより力が強い。この数か月の旅の成果が出ている。逃げられない。

 レオンハルトは明らかに困惑していた。


「な、なんといったらいいか……」


「止めてください!」僕は叫んだ。


「……じゃあ、秘密を話すか?」とレオ。


「え、ええと……」


「スーちゃん、チャンスです」キャリオ様がいった。応援するように両手を握りしめている。鼻息も少し荒い。「秘密なんてどうでもいいですから、やっちゃいましょう!」


「や、やっちゃってもいいんでしょうか!?」とスクエラ。


「ダメです」これは僕だ。


「構いません。神様もお許しになります。ね、エル?」とキャリオ様。


「じゃ、じゃあ……」


 スクエラはいよいよがっちりと僕の腕をつかみ、目を思いっきりつぶって、キスをしようと顔を近づけてきた。


 僕は……、


 僕は、逃げた。

 転移魔術で。スクエラの腕から逃れて一メートルほど、移動した。


「え」スクエラは目を開いた。


 その時のスクエラの表情をみて、僕は内臓をわしづかみにされたような気分になった。

 僕は目をそらした。


「ご、ごめん」


「ううん、大丈夫」スクエラは笑った。


 僕は自分がつくづくイヤになった。これが自分の望みだったはずだ。スクエラが僕のことを嫌いになっていくことが、僕の望みだ。

 でも、僕はそうして嫌われていく過程に耐えられるだけの勇気というか、信念のようなものが僕には無いかもしれないと、思い知らされた気分だった。


 レオンハルトはため息をついた。


「色々と言いたいことはあるが……俺が一番いいたいことは同じだ、クリム。話してもらおうか」


「え?」何の話か、思い出すのに少しかかった。「ええと……スカーレットについて、でしたか?」


「そうだ」


「それは……」


「必要なら誓いを立ててもいい」


「誓い?」


「ああ」


 レオンハルトの顔をみると、彼は目を閉じていた。


「お前が何を話しても、俺はそれについて何も言わない。怒らない。殴らない。行動しない。……不問だ。お前が話す言葉は、ただ消えていく。お前の言葉を聞いて俺はただ知識だけを得る。知識を得て、誰が話したかを忘れる。……これでどうだ?」


「殴らない、というのが不穏ですが……」


 僕はため息をついた。

 レオンハルトにここまで言わせたのだ。ここまで言ってくれたのだ。これはもう、僕に残された選択肢など無いに等しい。

 ちらりと、キャリオ様の肩にとまる小鳥(エル)に目をやった。見間違いかもしれないが、レオンハルト同様、目を閉じているように見えた。


「わかりました。秘密は、無し、ですね」


「ああ。無し、で頼む。みんなも、いいよな?」


 レオンハルトの問いかけに、全員がうなずいた。

 ただ、スクエラの表情だけが少し、暗かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。