白い世界、1
「ダンジョンをいくつか攻略したからボーナスをもらってたんだよ」
レオンハルトは自慢げにそういって、金貨銀貨のつまった袋を僕にみせた。レオンハルトたちは相変わらず、行く先々のダンジョンを片っ端から攻略してまわっているようだった。そのおかげか、全員一回りか二回りたくましくなったような気がする。
それ以上に、疲労の影も見え隠れしているけれど。
「なんか話があるんだろ? とりあえず宿に戻ろうぜ。次の街へいく作戦会議する予定だったし。それでいいよな?」
レオンハルトが確認をもとめると、キャリオ様、リズリー、スクエラの三人はこくりとうなずいた。三人とも実に寒そうだった。
「よし。決まりだな」
「……あの、どうしてみんな、そんな薄着なんですか?」
「ああ、前の街からこっちに来るときに、服を買いかえるヒマがなかったからな」
レオンハルトがそういうと、後ろの三人から非難ごうごう、異議申し立ての声が相次いだ。その中でも声が一番大きかったのはキャリオ様だった。
「早く次の街へいこうと私たちをせっついたのは誰ですか!?」
「あれ、そうだっけ?」
「もー! 今日という今日は許しません! スーちゃん!」
「はい!」スクエラはレオンハルトの手から、ボーナスの金貨袋をかすめとった。「これは没収です!」
「あ!? 俺の金!」
「リズリーさん!」
「おう」リズリーはレオンハルトの脳天に拳骨を振りおろした。「あれはお前の金じゃない。みんなの金だ」
「うげげげげ……」
衝撃で、レオンハルトはふらふらと千鳥足になり、僕と肩を組むようにしてもたれかかってきた。
「クリム~、助けてくれよお。みんなが俺をいじめるんだ~」
「みんな元気そうで安心しました」
「お前の目は節穴かよ、ちくしょー!」
そうこうしているうちに僕たちはレオンハルトたちが宿泊しているという宿屋にたどりついた。レンガ造りの頑丈そうな建物で、中に入ると外の凍えるような寒さが嘘のように暖かった。木の窓が風でゆれているが、隙間に羊皮紙かなにかがつめられているおかげで風はあまり入ってこない。キャリオ様とスクエラが我先にとロビーにおかれた暖炉にとんでいった。薪の燃える匂いがする。
宿の主人から鍵をうけとったレオンハルトが「ほら行くぞー」というと、女性陣はしぶしぶ暖炉から離れた。僕たちは少し寒い階段をのぼって、部屋にはいった。
レオンハルトが暖炉に火を入れると、すかさずスクエラが水を入れたポットをかけ、そのままキャリオ様と一緒に暖炉の前に陣取ってしまった。
僕とレオンハルトとリズリーは、二人の後ろで暖炉のぬくもりをえられないかを模索したが、どうやら無理らしいとあきらめてソファに座った。やがてお湯が沸いて、お茶とコーヒーとミルクがふるまわれた。僕は当番だというスクエラを手伝って給仕した。
それぞれが温かい飲み物を飲んでホッとしたところで、レオンハルトがいった。
「さて、クリム、話を聞かせてくれ」
「わかりました」
僕は話した。
彼らの留守中に王都で起こったこと。
ベルさんに起こったこと。
僕の記憶がないこと。
シャルロット様が苦しんでいること。
ベルさんがやがて死に至ること。
僕はそれをなんとかするために来たということ。
みんなに【未踏の紅】の攻略を手伝ってほしいこと。
レオンハルトが了承したあと、次に口を開いたのはキャリオ様だった。
「おおよそのことは、この子から聞いていました」彼女はそういって小鳥ののどをなでた。「ベルは助かるのですか?」
「勝算はあると思っています」
「わかりました」キャリオ様はうなずいた。「エルは否定的ですが、私は執事さんを……信じています。あなたはシャルの見こんだ人ですから」
「ありがとう、キャリオ様……」
僕はちょっと涙が出そうだった。人のいいキャリオ様のことだ。きっとそういってくれるだろうと思っていた。思ってはいたが、実際に彼女の口からいわれると胸に来るものがあった。
「もちろん、私だって信じてるわ」
スクエラが少しムスッとしたようにいった。たぶん僕がキャリオ様の言葉に感動したのをみて気分を害したのだろう。嫉妬……だろうか? それなら悪いが、悪くない気分だ。
「ありがと、スクエラ」僕はにこっと笑った。
「なんかありがたみが薄くない?」
「僕だって君のこと信じてるもん」
「嬉しくない信頼だわ……」
「ありがとう、スクエラ。本当に」
「……ふんだ」
スクエラはぷいとそっぽをむいた。けれど、耳が赤くなっていることに、気づかない僕ではない。しめしめだ。
「俺も、賛成だ」リズリーがうなずいてくれた。「一度旅した仲間を見捨てられるか」
「ありがとう」
「礼には及ばない」
リズリーは大きな手を少し上げて「気にするな」とジェスチャーした。そして、レオンハルトをみてため息をついた。
「気に入らないのか?」
「ああ、気に入らない」
レオンハルトは冷たい声でいった。




