色褪せた世界、3
「ベルさんのケガの具合について、聞くのを忘れていました」
病院からの帰り道で、僕がそういうとシャルロット様は振りかえって僕をにらみ、目を伏せ、ぽつぽつと話しはじめた。
「ベルの足は、がれきの下敷きになったの。そこにあなたが駆けつけて、がれきをどかして、ベルを連れて私に引き渡した。私が治癒魔術をかけたんだけど、死なないようにするだけで精一杯だったわ」
シャルロット様はちらっと僕をみて、次に空をみた。冬のはじまりのような薄い青空だった。
「応急処置は間違っていなかった。あなたも、私も。でも、骨がばらばらに砕けて、神経と筋肉がずたずたに切れてたらしいのね。だから……」
「治らないんですか?」
「そう言われたわ。魔術をかけるときに、私もベルの足をみたけど、同じことを思ったわ。『ああもう、ベルに服を着せてもらうのは無理かもな』って」
「……」
「言っておくけど、私は、怒ってるのよ」
シャルロット様はバッと僕を振り返り、いきなり話を変えた。
「スクエラちゃんのこと。ベルが話しちゃったから、話すけど、ぜんっぜん、これっぽっちも納得なんかしてないわ。理由があるから、なに? それで私にあんな啖呵きっといて、それを許せと?」
「その啖呵を、僕は覚えていないのですが……」
「知ってるわよ」シャルロット様はフンと鼻をならした。「保留にするっていったでしょ。保留にはするわ。あなたは変わらず私の執事よ。でも、折に触れてチクチクいうからね、私は」
「許して下さったのは――」
「許してない」
「……執事として働いてもいい、のは……ベルさんが怪我をされたからですか?」
「……」シャルロット様は黙って前方、道の先をにらんでいる。
「ベルさんを安心させるために、保留にして下さったんですか?」
「……まあ、だいたいは」
「だいたい? 全部じゃないんですか?」
「ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ、細かいわねえ。クビにするわよ」
「す、すみません」
「ベルの足……」シャルロット様はぽつりと言った。「どうにかならないかしら?」
「え」
「あなたなら……なんとかする方法を、知ってるんじゃない?」
「なんとかする方法、ですか……」
「どうなの?」
僕は少し困惑した。僕はシャルロット様の前で、そんな『何でも解決できる』ようなイメージを与えた覚えはない。せいぜい、『ちょっと手品ができる小器用な執事』くらいのイメージのはずだ。
ベルさんとの会話でも違和感があったけれど、僕の記憶のない間に、僕は正体を勘繰られるような重大なミスをしたのではないだろうか……?
「どうなの、クリム?」シャルロット様は繰り返した。「黙ったってことは知ってるのね?」
「その理屈は無理がありますよ」
「知ってるの?」
「……」
僕は黙った。
一つ、心当たりがあった。かなり有望な心当たりが……。
ただし……今すぐに決断するのは早計だとおもった。
「……少し、時間をくれませんか?」僕は目をふせた。
「あるのね!?」シャルロット様は僕の肩をつかんで乱暴に揺さぶった。「心当たりが、あるのね!?」
「……」
「クリム!」
「……シャルロット様、考える時間をください。お願いします」




