色褪せた世界、1
「最難関ダンジョン【未踏の紅】に、一緒に行ってくれませんか?」
僕がそういうと、レオンハルトたちは一瞬きょとんとした顔をした。
暖炉で、薪が焼けて折れてぱきっと音を立てた。窓の外では雪が横向きに流れていて、窓枠ががたがたと鳴った。
「クリム、お前正気か?」レオンハルトは険しい表情でいった。「おかしくなったんじゃないのか?」
「僕は正気です」
「ベル嬢になにがあったかは、おおよそ聞いていた」レオンハルトはキャリオ様を振り返った。彼女は少しうつむいたまま動かない。「目の前にいたのに、救えなかった。つらいだろう、無念だろう。それはわかる」
「わからないでしょ」
「経験はある」
「同じことを感じたとは思えません」
「……なぜスカーレットなんだ?」埒が明かないと思ったのだろう。レオンハルトは論点を変えてきた。「帰った者がいない……つまり血で染まっているからついた名前だ。罪悪感で自殺でもしにいくつもりなのか?」
「違います。それならあなた達を誘ったりしない」
「そうだな」
「ベルさんのためです」
「そうだろうさ」レオンハルトはうなずいた。そんなことはわかり切っているといわんばかりに。「スカーレットに何があるんだ? なぜ、お前は何かあると知っている?」
「答えられません」
「なに……?」
「両方とも、答えられません」
「お前は、それで俺に、俺たちに、お前を信じて命をかけろと言うつもりなのか」
「そうです。僕はあなたを知っています」
「だから?」
「来てくれると信じています」
「イカれてるぞ、お前」
「来てくれますか?」
レオンハルトは迷惑そうに思いっきり顔をしかめた。
「……お前、本当に嫌なやつだよなあ」
「ありがとう、レオンハルト」
***
――僕がレオンハルトと話をする、数週間前。
王都にて。
「え、ベルさんが……重症を負った……?」
王都でクロコダイルなる巨大な魔物が暴れまわったのが数日前のこと。その騒動以来、丸二日ほど僕は眠り続けていたらしく、シャルロット様から何が起きたのかを聞いた。
クロコダイルは王都に非常に大きな被害を及ぼしたこと。
僕やシャルロット様、ベルさんをはじめたくさんの魔術師で協力して倒したこと。
その戦闘で、僕はクロコダイルの攻撃を受けたこと。
どうやらその衝撃で記憶を失ったらしいこと。
ベルさんが極めて重い傷を負った、ということ。
「たぶん、二度と自分の足で立てないと思う。それくらい、ベルの傷は重いわ」
「そんな……」
「寝起きのあなたにこんなことをいうべきじゃないけど、いずれは知ることだから……」
「僕は、大丈夫です。シャルロット様は……」
「私も平気よ」
「……」
シャルロット様の顔色は苦痛が隠しきれていなかった。どうみても「平気」ではなかった。
「それで……クリムはどう? 身体に異常はない?」
「大丈夫そうです」僕はベッドから下りて立ち上がった。どこもおかしなところはなさそうだった。「絶好調、とはいきませんが、平気です」
「そう。じゃあ……ベルのお見舞いに行くけど、クリムも来る?」
「はい。もちろんです。支度します」
「あなたは寝間着でもいいわよ。あなただって病み上がりなのだし……」
「ありがとうございます、シャルロット様。ですが、僕がいった『支度』というのは、僕のことではなくシャルロット様のことです。……まさかその格好で出かけようとされていたわけではないですよね?」
「……」
「なぜ目をそらすのですか、シャルロット様?」




