惨劇③
僕は二人との会話を切り上げてベルさんの救出に行った。ビスキュイ殿下は肩をすくめただけで、何も言わなかった。気づいた時にはすでに姿が見えなくなっていた。
魔術でがれきの下をみると、たしかにベルさんはそこにいるようだった。ほとんど動きがない。呼吸しているかどうかはわからない。とにかく掘ってみるしかないだろう。
アルテミスを使って重力魔術を実行した。大量に積みあがっていた瓦礫を反重力で空中へ放り投げてどかした。人もいくらか舞い上がってしまったが、そのままにしておいた。生きている人間はいなかったからだ。やがて、ショコラの言っていた地下通路が見つかった。
会場の地下十メートルほどの位置を、やや広めの通路が突き抜けている。水も流れているし、非常時の脱出用の通路というよりは、古い下水道かなにかだろう。
魔物が踏んだか、瓦礫が落ちた衝撃で、床というか通路の天井が崩れたらしい。ベルさんはその崩れた場所から、かろうじて地下通路に逃れたというところか。
僕は地下に下りた。
ここにも当然だが、瓦礫が落ちてきている。そして、数は少ないが、いくつか死体があった。
ベルさんはすぐに見つかった。
「おや、あなたですか……」
闇の中、瓦礫の影からベルさんの声がした。彼女は、仮面をしている僕の顔と、タキシード姿をみて少し笑った。
「クリム・ホワイト、あなたが沈黙の密猟者だったのですね……」
『……』
僕は瓦礫を回り、魔術で明かりをつけて、彼女の足元を照らした。右足ががれきの下敷きになって、ほぼ完全につぶれていた。
「下手を打ちました」
ベルさんは力なく微笑んだ。
「運よく地下への逃げ道ができたのですが、落ちたときによろけてしまって、落ちて倒れてきた瓦礫を避けきれませんでした」
瓦礫を取り除くのは簡単だ。魔術で持ち上げればいい。けれど、こういうふうに身体の一部をつぶされたときは、たしか下手に瓦礫を取り除いてはいけなかったと思う。毒が回るとかなんとか……。
「私のことはいいのです。どうか、シャルロット様の加勢に行ってください。あれと、戦っているのでしょう?」
『そう思うなら、自分のことをあきらめないでください。シャルロット様はベルさんのことをあきらめて幸せになれるほど強くない』
「そんなこと、どうにでも……」
『ちょっと黙ってください』
対応方法は二つだ。
①足を切り落とす。
②足を縛って瓦礫をどかす。
まあ、②だな。瓦礫をどかせないなら①も視野に入れるが、リスキーなだけで、特にメリットがない。
②だ。
『足を縛って止血します。失敬……』
自分のベルトを外して、ベルさんの太ももの付け根に近い部分をきつく縛った。
「っ……、うっ……! ……ふ、ふふ……。やはり、あなたは変態でしたね、クリム・ホワイト……」
『黙っててください』
止血の処置を終えて、瓦礫をどかした。その作業は苦痛が少ないよう、可能な限り丁寧に行ったが、それでもベルさんは苦しそうだった。だが、悲鳴はほとんど上げなかった。顔をそむけ、歯を食いしばるあまり、唇を切ってすらいたが、声はあげなかった。
彼女のことも重力の魔術で持ち上げようとしたが、きつくにらまれてしまった。
「シャルロット様お一人で、勝てる相手なのですか?」
『厳しいですね』
「あなたも加勢に行くのでしょう?」
『はい』
「だったら、魔力は温存しなさい」
『でも、きっと痛いですよ』
「構いません。そのせいであなたが戦えず、シャルロット様が死にました、なんて知らせを聞くより何倍もマシです」
『大丈夫ですよ』
「いいから早くしなさい! 私を助けるのは認めますから、これ以上手間をかけないでください!」
ため息をついて、彼女を手で抱えた。痛みのせいか、それとも僕に抱えられるのが気に入らないからか、彼女は指で僕の肩を強くつかんでいた。
すこし血がにじむほどに。




