パーティー③
書斎の扉の前にたって、ノックしようとしたとき、中から声が聞こえた。
「入れ」
僕はノックを中断して、ドアノブを回した。暗く閉め切った部屋の奥で、ランプの灯りだけがついている。殿下は横をむいて本を読んでいた。
「何の用だ?」
「二つ、あります」
「……お前、腕輪はどうした?」
殿下は振り返って言った。
「ショコラに返したのか」
「腕輪は……人に渡しました」
「……」
殿下は本を閉じた。
「あれは、かなり古いアーティファクトだ。王族が代々受け継ぐ物の一つだぞ。……ショコラになんと言われていた?」
「失くすな、と」
「どうやって、渡した?」
「それは、その、手渡しですが……」
「……」
殿下は不服そうに眉をひそめ、黙った。
「あの、殿下……?」
「詳しく状況を教えろ。いつ、どこで、誰に、なぜ渡した」
「二日前に、ダンジョンで、……幽霊に、交換で渡しました」
「は? 幽霊だと?」
「本当のことです。信じられないと思いますが……」
「そのダンジョンにはなぜ行った?」
「……この前、殿下は僕に本を一冊くださいましたよね?」
「ああ」
「その本には暗号が隠されていました。その指示に従って、行きました」
「腕輪の交換が指示されたことだと?」
「いえ、正確には違います。あるアイテムを手に入れることだけが書かれていて、それを手に入れるためには交換する必要がありました」
「それで交換したと」
「はい」
「幽霊にわたした、と言ったな。何者だ、そいつは」
「わかりません。ただ、千年以上前の死者だったようです」
「ほう」
「あ。あと、この国の建国者の兄、というようなことも仄めかしていました」
「……」
殿下は長い沈黙の後、ため息をついて、本を開いた。
「わかった。この件は、不問でいい」
「え、いいのですか?」
「なんだ、不服か? 国賊として処刑されたかったのか?」
「いえ! めっそうもないです!」
「ふん……。頼みはもう一つあると言ったか」
「あ。はい、そうでした」
「なんだ」
「ミント伯のことです」
「なんだ、助命でも請うつもりか。ならお断りだ」
「いえ。助命ではなく、延命です」
「……」
殿下は無言で顔を上げた。僕は続けた。
「シャルロット様に危害を加えたのですから、僕としても助命するつもりはありません。ですが、子供に罪はありませんから……」
「わかった」
殿下はあっさりと言った。本に目を落として言う。
「期間は?」
「え、ええと、三年、です」
「……」
殿下はしばらく返事をしなかった。
「あの、殿下……?」
「その頃にはとっくに終わってるだろうに。今更だな」
「……どういう意味ですか?」
「いいだろう。聞いてやる」
「ありがとうございます」
「伯には、一か月以内に来るよう言っておけ。命令の上書きをするとな」
「わかりました」




