本⑧
そういうわけで、シンボルは手に入れた。僕は浮かれて、「メッセージの送り主に従って、フロイに渡すかどうか」を考えるのをやめていたが、冷静になって色々考えても結論は変わらなかった。シンボルは、なにかのアーティファクトだったりはしなかった。魔術とは何の関係もない、ただの物体だ。いつか、どこかの誰かが木を削ってつくっただけの、アクセサリーのようなもの。
渡したところで、フロイが狂気にめざめて町を破壊して回る……なんてのは大げさとしても、これのせいでフロイがシャルロット様や僕の敵になったりするようなことはないと思う。
順序が逆転した考え方だが、これをフロイに渡すことで何かが起こると、メッセージの送り主は考えているのだろう。それを信じるならば……むしろ渡すべきだと思った。
僕は王都に戻ってすぐに、ギルドに行った。夜遅くだったから、人気はほとんどなかった。けれども、どういう運命のいたずらか、そこで僕は変装しているイニチェと出くわした。むこうも僕に気づいたが、そのまま建物から出ていった。掲示板のチェックが終わって帰るところだったのだろう。僕は足を止め、受付嬢が僕を不思議そうにみていることに気づきながらも、きびすを返した。
「こんばんは、奇遇ですね」
僕はイニチェを追いかけて、肩をたたいた。彼は足を止め、しぶーい顔で僕を振りかえった。
「鉢合わせしても知らん顔しようと言ったのは、お前だったじゃないか」
「そうでしたっけ?」
「急用か?」
イニチェはため息をつき、ふたたび歩き始めた。僕はついて行った。
「そんな風にも見えないが……」
「ああ、えーと……」
そこで僕は気づいた。イニチェとユンに気づかれずに、フロイにシンボルを渡さなければならないのだが、その手段についてまったく考えがないということに。
「ちょっと、二人の顔がみたいな、と思って」
「二人? ……ユニとフロルのことか?」
イニチェはとっさでも二人のことを偽名で呼んだ。
「そう。ユニとフロル」
「ふーん……?」
イニチェはあからさまに不審そうに僕をじろじろと見た。
「お前そんな奴だったか? 用が無ければ知り合いのことなんてまるで忘れてて、いまどうしてるかなんて考えもしない奴だと思ってたな」
「失敬な。そんなことはない」
現にシャルロット様のことはよく考えるし。
「まずいかな?」
「いや、まずかないが……。今からか?」
「うん」
「二人とも寝てると思うんだが」
それは好都合だ。ユンが寝ているなら、ハードルは多少下がっているだろう。
「別にいいよ。顔がみたいだけだし」
「……」
「なに?」
「いや、ちょっと気持ち悪いなと思って」
「失敬だな、さっきから」




