本⑦
気づけば、僕は閉じた門の前で大の字になって眠っていた。いや、気絶していたのか。体を起こして、自分の手を見た。幽霊にわたされた袋を持っていた。今にも破れてバラバラになってしまいそうな、皮の袋だった。
僕は、そっと紐をゆるめて中身をのぞきこんだ。
「え?」
僕はそれをみて、一瞬フリーズした。
たしか、これをフロイに渡せとあの本のメッセージは言っていたはずだ。イニチェとユンには、見つからないように渡せと。
これは、どういうことだ?
まさか、そういうことなのか?
「おっ! 戻ってきたのか!」
大きな声がしたので、僕は慌てて皮袋の紐をしめ、インベントリに放りこんだ。
工房の管理人は僕の目の前で立ち止まった。
「お前、その目、どうなってるんだ……?」
「目?」
言われて気づいた。そうか。腕輪を渡したから、呪いが出ているのか。僕は返事をする前に目隠しをまいた。
「実は少々呪われていまして」
「門の奥でか?」
「ええと、話すとややこしいのですが、違います」
「あー……。まあいいか、これ以上は聞かねえほうがいいか」
「助かります。ところで、ここで何をしているんですか?」
「俺は見回りだよ。もう消灯時刻だからな。どっかの馬鹿が脱走してねえか、チェックしてる」
「大変ですねえ」
僕が言うと、管理人は鼻を鳴らした。
僕は管理人にあいさつして、工房を出た。外に出ると、管理人の言葉通り、夜になっていた。今夜は霧は出ていなかったが、ついでに月もなかった。しかし、もう腕輪はないから、光はあまり関係ない。僕は魔術の目をたよりに暗い森をゆっくりと歩いて帰った。
皮袋の中身をフロイに渡す。なんだか、わらしべ長者みたいな話だ、と思った。ビスキュイ殿下にもらった本に隠されたメッセージが書かれていて、ショコラにもらった腕輪と交換に皮袋をもらった。本がすこし余計だし、まだ一回しか交換してないけど、物々交換という行為自体、僕には新鮮だからそう感じる。
いつフロイに渡せばいいだろう。今のところ、イニチェたちに会う予定はない。街中でばったり鉢合わせるような偶然でもない限り、機会はないだろう。呼び出すのが一番確実だ。
ミント伯のパーティーまで一週間、とショコラは言っていた。それまでに会えるだろうか。おそらく、そのパーティーでビスキュイ殿下はトアン卿の件にひと区切りをつけるだろう。
そろそろ、シャルロット様のところに、戻りたい。
ビスキュイ殿下が許してくれるかはわからない。そもそもシャルロット様が許してくれるかも、わからない。またスクエラのことでもめるだけかもしれない。
その時は……。
心配しても仕方ない。でも、とりあえずシャルロット様のところに戻れたら戻りたい。
そうなると、フロイに皮袋の中身をわたすイベント――まあゲームにこんなイベントは無かったが――は早めに済ませてしまいたい。それはバレやすさというより、バレた後のフォローの観点からそう感じた。シャルロット様にバレるのと、ビスキュイ殿下にバレるのとでは、どちらが致命的かということ。ビスキュイ殿下にバレても、正直ほとんど問題はないと思う。今回行動をともにして、殿下もどうやらかなりアウトローだとわかった。まさか七大魔剣まで持っているとは想像すらしなかった。
もちろんシャルロット様にバレたら、即アウトだ。火都への道中と、キャリオ様の火あぶり未遂事件にも少なからず関わっている邪教徒と、交友がある……どころか「僕が、事件がちゃんと発生するよう調整させた」なんて知られたらヤバい。全部シャルロット様のためではあるが、そんな言い訳通用しないだろう。言っても聞いてくれないか、言うことすらできないかもしれない。
だから、このイベントは早めに終わらせよう。王都に戻ったら、ギルドの掲示板に暗号入りの依頼を掲載する。それをイニチェが確認するのに二三日。会合のセッティングに二三日。概算だが、だいたい一週間弱だ。まあ、運がよければパーティーより前にイニチェたちに会えるだろう。
そこからさらにフロイだけにプレゼントが渡るようにしなければならないが……それも考えないとな。
ああ、あれもこれも大変だ。本当に気が滅入る。




