本⑤
管理人に「ダンジョン内にどこか特別そうな場所はないか」とダメ元で聞いたところ、変な顔で「ある」といわれた。
「一か所、門みたいな場所がある」
「門?」
「ああ。くぐっても何も無いただの飾りなんだが、ここはそれ以外特徴のないダンジョンだからな。最深部もねえし」
というわけで、地図の通りに進むと、洞窟の中に仮想物体でできた門が立っていた。古いダンジョンによくあるタイプだ。古代の魔術師が最深部の魔物を閉じこめておくために作ったものに似ている。
「開け、奈落の門」
管理人に教えてもらった合言葉を唱えると、門は振動しながらゆっくりと開いた。もしも管理人の頼みを聞いていなかったら、こんなにスムーズに事は運ばなかっただろう。工房の中を当てもなくさまよい、この門も力づくで破壊する羽目になっていたはずだ。それだけでも茶番に付きあった意義はある……はずだ。
やけに暗い。ランプを持ち上げてみても、門のむこうの地面が見えない。
「……?」
どうなっているのかと思って、地面を踏んでみたら、何の感触もなかった。
「ん? あ、あれっ?」
つまり、地面が無かった。
足を踏み外して、穴に真っ逆さまに落ちた。
ああ、だから奈落の門なのか。なるほど。
いや、納得している場合か。
重力魔術で重力を消して、落下を止め、空間把握で魔力をとばして、周囲の状況を確認した。また門のところに戻ろうと思った。
しかし、門は見つからなかった。どういう理屈なのか、周囲二十メートル以内には門どころか床も壁もなかった。そんなに落ちたはずはないが、ないものはなかった。
ひょっとしたら転移魔術でどこかに飛ばされたのだろうか……。
とりあえず、着地したかった。重力魔術はいつまでももたない。いずれは落下する。どこに降りるべきか探そうと、足元を魔法で照らした。しかし、まったく地面は見えない。まじか。
ちょっと本格的に焦ってきた。地面までどれほどの距離があるのかわからないが、この分だとどれだけ防壁を重ねたとしても死は免れない。
とりあえず、仮想物体で落下傘を作った。初めてなので不安だったが、思ったよりちゃんとできたらしい。重力魔術を切ってもそれほど速度は上がらなかった。落下死についてはこれで一安心だろうか。
落ちながら、周囲を見渡した。
濃い闇があたりを取り囲んでいる。光の魔術を四方八方にむけて撃ってみたが、なしのつぶてだった。床も壁もまだ見つからない。
いままでにもダンジョンには何度も足を踏み入れている。だから、暗い場所には慣れてきたつもりだったが、ここはちょっと感じる空気が違う。いままでは、暗いといっても光の魔術をつかえば壁を照らすことができたし、床はあった。
しかし、この場所は違う。床も壁もない。濃い闇が広がっているだけだ。まるで顔にまとわりつくような、無限にも思えるような、闇があるだけだ。
「一体、なんなんだ、ここは……」
僕のつぶやきは無限の闇の中へ静かに消えていった。




