本④
「工房のダンジョンに入りたい?」
ミント伯からの書状を僕がみせると、魔剣工房の管理を任されているという男はけげんな顔をした。
前にも一度着ているが、派手に暴れたので当然顔は割れている。普通に入っても袋叩きにされるのがオチなので、ミント伯の執事にも同伴してもらった。まあ当の執事はいま、部屋の端で青い顔で縮こまっているが。
最初、眉間に青筋をたてていた管理者だったが、書状を見せると「話くらいは聞くか」という態度になった。そうか。たぶん、一度暴れているから、また働きたいと言った場合の方がマネージャーとしては面倒なのか。
「わけわかんねえこと言う奴だなあ……。ここは元々廃棄されたダンジョンだ。中に入ったって、ほとんど何もねえぞ?」
「知っています」
「ダンジョンに潜るとみせかけて、また工房で暴れようってつもりじゃあねえだろうな」
「前回はそちらがシャルロット様を捕えていたから、脱出するために少々強引な手を使っただけです。あなた方に僕を責めることはできないと思いますが?」
「てめえも、別に合法ってわけじゃねえだろ」
「……」
「まあいい。別にお前とケンカしてえわけじゃねえ。……わけじゃねえが、落とし前ってもんもあるよな」
「こっちはミント伯の許可を得ているんですよ?」
「たしかに伯爵の意向を無視することは、俺にはできねえ。だが、だからといっておいそれとお前を通すのは、ちょっと勘弁したいな。探索するってことは工房中歩き回るってことだろ? お前に殴られた連中にバレるし、申し訳が立たねえ」
「……」
僕は腕を組み、椅子に腰かけた。どうやら長引きそうだ。
「なにをしろと?」
「まあそう怒らないでくれ。面倒を避けたいのは俺も同じなんだよ」
「要点を」
「お前に不満のあるやつ代表と、お前で決闘することを、許可するってのはどうだ? もしかしたら前に出てまでお前を殴るつもりのあるやつなんて現れないかもしれないし、出てきたところでお前なら、簡単にのしちまうんじゃないか?」
「僕になんのメリットが?」
「あー、そうだな。お前、あと半月、うちで働く予定だったよな。勝ったら、その分の給料出してやるよ」
「いいのか?」
「ああ。オーナーの許可もあるし、これは俺のワガママだ。それくらい百も承知で言ってんだ」
「ふーん……。わかった、やるよ」
「よし。……いやあ、助かったぜ」
「なにが?」
「ここんとこ、働きづめだったからな。娯楽が足りてなかったんだよ。久々のお祭りだ。正直、ありがたいよ」
「あっそう」
「じゃあな、みんなにも声をかけてくる」
管理人はそういうと、管理室を出ていった。僕はため息をついた。
「値段を吊り上げるべきだったのか……」
その後、管理人は不満のあるやつ代表を連れて戻ってきた。僕は元作業仲間たち、および代表になれなかった不満を持つ連中の目の前で、その代表をボコボコにした。ぶっちゃけ全然大したことない奴だった。でもまあ、報酬ももらうことだし、管理人の望み通り「娯楽」としてハラハラした試合運びになるようにセーブして戦った。
その甲斐あってか、観客も結構盛り上がっていた。
少し多めの報酬をもらった。
ちょっと嬉しかった。




