迷路⑦
僕とシャルロット様は迷宮を出口へ向けて進んだ。最初に洗脳した男から出口は聞いていたので、迷うことはなかった。ただ、前から後ろから男たちが現れて、行く手をふさいでくるのが厄介と言えば厄介だった。僕はベルさんをおぶって後ろを歩いていたから、前方の敵を相手にするのはシャルロット様だった。後ろの敵は僕の担当だ。顔をみられるとまずいことがわかった今は、相手が曲がり角から姿を見せるや否や、振り向きざまに魔術をとばして気絶させることにしていた。あまりに早いので、「あなたが前を歩くべきじゃない?」とまで言われたりした。
けれど、敵の数は断然前の方がおおい。魔力に余裕もなくなってきた。やはり前はシャルロット様が立つべきだ。
立ちはだかる私兵や作業員の数は、あまり増えなかった。何回かにわけて防衛ラインが形成されていたようだが、一度に攻撃されたのは最大で三十人くらいだった。彼らのレベルは大体1か2といったところだろう。レベル3は一人もいなかったと思う。要するになんら問題はなかった。
そうこうしているうちに、迷宮の外、つまり魔剣工房の外に出た。薄気味の悪い森だった。ぐねぐねと枝を伸ばした枯れ木が林立している。そのため、森なのに月明かりでよく照らされて視界は良好……のはずだが、霧がたちこめていて見通しはまるで立たなかった。あの世の光景のように青白い薄闇に覆われている。
「相変わらず気味の悪い森ね……」
シャルロット様が言った。
「これからどうするの?」
『森を出よう。その後で、このメイドの洗脳を解こう』
「わかったわ」
『そういえば、手ぶらで出てきてしまったが、よかったのか?』
「え?」
『なにか、調査しに来たんじゃないのか?』
「……」
シャルロット様はぼんやりした顔でこちらを見た。いや、見ているようで見ていない。なにか考え事をしているようだ。
トアン卿とミント伯の関係を探っていたのだし、証拠の一つや二つ持ち帰ってもよさそうなものだ。普段のシャルロット様なら「転んでもただじゃ起きないわよ!」くらいは言いそうなのだが。
「いいの」
ほとんど無表情で、彼女は言った。
「たぶん、これ以上調べない方がいいと思うから」
『……らしくない』
僕は思わずつぶやいていた。完全に密猟者としての演技を忘れていた。シャルロット様はいぶかしげに眉をひそめた。
「らしくない……? あなたはそれほど私のことを知っているわけじゃないでしょう?」
『……クリムから聞いた』
「本当に? いえ、嘘ね。あなた達、そんな仲じゃないでしょう。クリムは……」
シャルロット様は言いかけて、やめ、首をふった。
「とにかく、嘘よ」
『……』
腑に落ちなかったが、これ以上突っ込んだところで答えが得られるとも思えなかったので、僕は口をつぐんだ。
二人して黙って、青白く輝く森を歩いて進んだ。僕は目を覚まさないベルさんをおぶったまま、シャルロット様が何に悩んでいるのかを考えていた。
しかし、数分ほどで、その疑問は解消した。
「こんなことになるなんて、シャルロット様にも困ったものですね……」
無機質な声と共に、霧の中から、ショコラが現れたのだ。




