迷路⑥
「すごく囲まれてるわよ」
『わかってる』
したり顔で笑うシャルロット様に、僕は言い返した。
三十分ほどで、部屋は囲まれてしまった。扉はずっとガンガンと叩かれ続けている。ノックなどと言う生易しいものではなく、体当たりするような音だ。たぶん、私兵たちがかわるがわるタックルしているのだろう。
扉はシャルロット様が魔術でふさいだ。だからすぐに突破されることはない。けれど、扉だけではなく壁も叩かれている。いずれはどこかに穴があく。そうなれば、この狭い室内では、どうなるかわからない。
たぶん、このまま三十分以上耐えることはできないだろう。
僕は、ベルさんの頭から手を離し、上書き洗脳を保留にした。
「え、やめるの?」
『保留にする。残りは邪魔が入らないときにしよう』
「出るのね?」
『出る』
シャルロット様は、扉を閉じていた土のつかえを外した。外の連中のタックルをうけて、つかえの取れた扉が勢いよく開いた。彼らは驚いた表情をうかべながら部屋の中になだれこんできた。
『自動魔術:強化』
強化魔術をかけ、なだれこんできた彼らを片手で止めた。そのまま押し戻す。
『人様の部屋に勝手に上がりこむなよ』
「なんだ、こいつの馬鹿力っ!」
『狭いんだ。出ていけ』
最後は突き飛ばし、転ばせた。思い切り見下してやる。気分がいい。普段からシャルロット様やベルさんに見下されてきたが、最近は特にビスキュイ殿下やショコラに一層激しく見下されていた。耐性があるとはいえ、こうしてスッとしたところを考えると、ストレスがたまっていたようだ。やはりたまには発散するのも大切だな。
『死にたい奴は並べ! 殴ってやるから』
廊下には右も左も数十人の屈強な男たちがひしめいていた。
「なんだとぉ!? くそぉ、舐めやがってぇ!」
「挟みうちにしろ! 囲め囲め!」
「あれ? あいつの顔、どっかで見たことないか?」
あ。やばい。顔をさらしてたんだった。
忘れてた。
「あぁ? そう言われれば、どっかで……」
「あ! 知ってるぞ、あの、あいつ! 新入りだ!」
気が動転している間に、男たちは僕の正体に気づいたようだった。あれよあれよという間にピンと来た連中が増えていく。このままでは、まずい。名前を呼ばれたら、終わりだ。一瞬で彼らの口を封じるには――!
『過剰重力!』
廊下全体に十倍程度の重力を発生させた。男たちがぐしゃりと押さえつけられたように床にはいつくばる。
これなら、もう満足にしゃべることもできまい。
「……な、んだ、これぇ……!」
「お、重い……!」
「うああああ……」
「うーわ……」
一人だけ違うトーンの声が混じっていた。振り返ると、シャルロット様が「ドン引きだわ」とでも言いたげな目で僕をみていた。
「やりすぎじゃない?」
『敵に情けは無用だろ?』
「それはそうだけど、敵を見下してにやつくのはどうかと思うわ」
『にやけてない』
「にやけてた」
『……』
「どうするの? ベルを抱えて逃げるのかしら?」
『少し待て。念のため、全員気絶させる』
「用心深いわねえ。そんなに名前を呼ばれるのが嫌なわけ?」
『聞いてたのか』
「聞こえたのよ」
『密猟者なら、名前を知られたくないのは当然だろ』
「どうしてここで働いてたの?」
『……』
答えに詰まった。
うまい返しが思いつかなかったので、僕は黙って廊下に這いつくばる男たちに気絶をかけてまわった。
シャルロット様は何も言わず、腕組みして終わるのを待っていた。




