迷路①
「魔力を、分ける?」
『ああ、そうだ』
僕はインベントリから、ほとんど空になった弾倉を取り出してシャルロット様に見せた。
本当は、僕の魔力が少ないことを明かすつもりなんてさらさらなかった。それは弱点以外の何物でもない。
シャルロット様とはいつか敵対するかもしれない。そうでなくとも、なにかの魔術や今回のように人質なんかでも、シャルロット様がしゃべってしまうかもしれない。だから、話したくなかった。
しかし、こうなっては仕方ない。ベルさんを助けないわけにはいかない。協力を拒んでシャルロット様が泣くところなんて見たくない。
だから、仕方ない。
『実は俺の魔力量は、それほど多くない。特に最近は枯渇気味でな。だから分けてほしいんだ』
「でも、前は怪物相手に余裕だったじゃない?」
『怪物?』
「あの、植物のやつ」
『ああ、ヘッジホッグか』
暴走する生命の迷宮のボスを思い出した。たしかにあの時は調子がよかった。魔力に余裕があったからだ。
『あのときは余裕があったんだ。ストックがあったからな』
カートリッジをよく見えるよう持ち上げて、振ってみせた。
『今はストックが無い。だから、分けてくれ』
「わかったわ」
シャルロット様はカートリッジを受けとった。
「どうすればいいの?」
『それを持って魔力をこめればいい』
「よくわからないわ」
『なんでもいいから魔術を使えばいい。カートリッジが勝手に魔力を吸い出してくれる』
「……へえ、本当みたいね」
シャルロット様は指先に火をともしながら言った。
「少し魔力を吸い取られてるわね。言われればわかるわ」
『もっと火力を上げてもいい』
「へえ、言ったわね」
シャルロット様は不敵な笑みを浮かべ、火を消した。
「魔力をこめるってことの要領はわかったわ。どれくらい魔力をこめられるか試してみましょうか」
『いやいや、やめてくれ!』
僕はあわててカートリッジを取り上げた。とんでもない魔力をこめようとしているのがわかったからだ。
『カートリッジは繊細なんだ。あまり急に魔力をいれたら壊れるし、たくさん魔力を入れても壊れるんだ』
「やわな男ね」
『あんたが乱暴すぎるんだ』
僕はカートリッジを返した。
『手加減してやってくれ。少しでいいから』
「わかったわ」
シャルロット様は肩をすくめ、カートリッジを受けとった。ほんの十分ほどで、三本分の充電が完了した。その間に、シャルロット様から今の状況について、説明してもらった。
シャルロット様とベルさんが捕まった理由だが、やはりというか、トアン卿関連だった。トアン卿について調べているうち、ミント伯との共謀を知り、そちらにシフトしたらしい。ミント伯が弱点なのは共通認識のようだ。
しかし、どうも肝心なところがわからない。捕まった時の状況の説明が要領を得ない……というか、ぼかされている感じがした。
『どうして捕まったんだ? お前たちは二人とも手練れだろう? そう簡単に捕まるとは思えないが……』
「そうね。私もそう思ってた。で、実際そうだった」
『どういう意味だ? どうして捕まったんだ?』
「別に強い相手がいたとか、そういうことじゃないのよ。ただ……」
シャルロット様は言いよどんだ。
『ただ?』
「やっぱり私からは言えないわ」
『どういうことだ。何があった? ……あのメイドに何かあったということか?』
「ごめんなさい」
『……』
どういうことだろう。シャルロット様とベルさんが捕まったのは事実だろう。だが、強い用心棒に負けて捕まった、というような単純な話ではないようだ。たしかにシャルロット様はプライドが高い。嘘をついている可能性もなくはない。うっかりミスで、庭に生えているベルさんお気に入りのベゴニアの鉢植えを割ってしまった時は「ね、猫がやったのよ」とみえみえの嘘をついていて、ベルさんにこっぴどく叱られていた。それくらいにはミスを認めたがらない。
しかし、本当に大事なところで嘘をつくような人ではない。特に、ベルさんに関わることならなおさらだ。自分のミスを隠すために、ベルさんに濡れ衣を着せるようなことはしない。それだけは絶対にない。
だから、シャルロット様が原因ではないだろう。少なくとも全てではない。ベルさんに何かがあった、と考えていいのではないか。
そう考えても、どうも腑におちないが……。
「終わったわ。これでいい?」
『ああ』
魔力が満タンになったカートリッジを受けとった。これで準備はできた。あとはこの迷宮のどこかにいるベルさんを助けて脱出するだけだ。
悩むのは、後にしよう。




