同じ穴の狢⑤
一度は上手くいったかに思えた同盟だったが、落ち着いて考え直したミント伯から「一つ条件を出したい」という申し出があった。それは、「あの執事を魔剣製造工場で一か月働かせたら同盟を結ぶ」というものだった。
僕は怒った。話が違うじゃないかと。
殿下は笑った。即決で判を押した。
だから僕は、今、ここにいる。
地下深ーーーーく、廃棄された迷宮で、えっちらおっちら遺物を掘り出す作業に従事している。てっきり魔剣製造の工房にまわされるものとばかり思っていたら、手違いかなにか知らないが、思いっきり肉体労働に駆り出された。広い意味では魔剣製造かもしれないが、向き不向きを考えていなさすぎる。パイプ役になる、という話はどこに行ったんだ。
遺物堀りのまとめ役は脳筋で、話が通じない。だから部署替えも無理だ。何度却下されたことか。ついでに殴られたことか。
まあ、どのみち一か月の辛抱だ。その程度なら、一種の筋トレだとおもって割り切ってもいい。
はなはだ不本意だが。
まあ、一か月の辛抱、と思って働いていたら、ちょっとした事件があったのだが……。その話をする前に、もう少しこの労働環境について描写しておこう。
まずは住環境。
寝室は割と広い。迷宮の通路の脇に掘られた穴が自分の部屋として割り当てられる。部屋といっても、鉄格子付きの部屋だ。扱いとしてはほぼ監獄である。
作業員ももれなく監獄級の顔つきであり、中身だった。ケンカは日常茶飯事で、監督役はいるにはいるが、見て見ぬ振りか過剰に制裁を加えるタイプしかいないようだった。
ベッドはボロい。食事はまずい。トイレはバケツだ。
ひかえめにいってクソみたいな住環境だ。いつかの邪教徒の村の地下牢とどっこいどっこいである。
次に一日の流れ。
起床は朝六時(といっても、地下なので、お日様の光なんてもう一週間近く見ていない。実際は夜だとしても驚かない)。起きたら、まず労働だ。魔剣づくりでは、大量の遺物を消費する。密造となると、遺物を正規のルートから入手することはできない。となれば、マンパワーでこっそりひたすら掘るしかない。一に労働、ニに労働。たぶん安全とか人権は百くらいじゃないだろうか。言い忘れたが、朝食は無い。
昼食までひたすら働いたら、正午にようやく食事にありつける。まずいメシだが、量はある。エネルギー不足や、栄養不足にはならないよう、配慮はされているのか。ここはあくまでも利益を生むための施設だから、労働者には長期的に働いて欲しい、ということか。
ただし、休憩は認められない。休みたければ、危険を冒して監督役の目を盗んで休むしかない。
夜九時ごろまで働いたら、夕食だ。よく食べたら、一、二時間の自由時間ののち、就寝だ。風呂は週に一度。
そんな感じの生活を二週間ほど続けた頃、掘り出した土の山を運び出す場所が変わった。いつも運ぶ場所はもう埋まったらしい。それで、新しい場所へ土を運んでいた時のことだった。
「あ、おい、ちょっと待て」
土を運ぼうとしたら、作業の指示役に呼び止められた。
「なんですか?」
「どこへ運ぶんだ?」
「ええと……」
僕は行き先を説明した。まとめ役は舌打ちをした。
「えっ、なにか間違えましたか?」
「いや。途中でなにか変なものがあっても気にするな」
「変なもの?」
「気にするな、と言ったぞ」
「は、はい」
「わかったら、行け!」
情緒不安定なやつだ。僕は土を満載した手押し車を押しながら思った。
地下牢がたくさんある通路を通った。この施設には空の地下牢がたくさんあるから、珍しいことではない。ただ、たしかに「変なもの」はあった。
地下牢の一つに、カーテンが引かれていたのだ。しかも、明らかに奥に誰かがいる。小さいが物音がするからだ。
新入りが来た、という話は聞いていない。大体、新入りが来たのなら、僕たちの部屋の近くに割り当てられるはずだ。ここはどちらかといえば、作業場に近い。
そもそも、カーテンなんて、作業者の誰も持っていない。ここはプライバシーなんて皆無の世界だとばかり思っていた。
なんだこれは?
一体、誰がいるんだ?
僕は魔術でカーテンの奥をのぞいた。
空間把握を使えば、どんな人物が向こうにいるか知ることは難しくない。
どうやら、その人物は小柄なようだった。いや、華奢だといっていいだろう。
女性か……?
そうか。だから、カーテンを引いているのか。
それにしても、なぜ、こんなところに女性が……。
……。
しばらく観察しているうちに、なんだか「見」覚えのある人物のような気がしてきた。
僕はこの人のことを、何度も「見」たことがある。一度や二度ではない。
そんな馬鹿な。どうして、彼女がここにいるんだ……?
「……そこに誰かいるの?」
聞き覚えのある凛とした声。
かすかに怯えのような色が混じっていたが、間違いない。
シャルロット様だ。




