同じ穴の狢④
「どうです? 上手くいったでしょう……いでででで!?」
ミント伯の屋敷からの帰り道、伯爵との交渉が成功したことを自慢したら、ショコラがキレた。力いっぱい、耳をひっぱられてしまった。
「まったく……」
ショコラは気が済んだのか、腕組みしてシートにどすんと腰かけた。その反動で馬車が少しゆれた。
「そんなに怒らなくったって……。いてて……」
「怒ってません」
「いや、怒ってたじゃないですか……」
「殿下、次はどうなさいますか?」
「もう少し、お前たちの漫才を見ていたいかな」
「殿下?」
「そう怖い顔をするな、ショコラ」
ビスキュイ殿下は喉を鳴らして笑った。
「私たちの目論見通り、ミント伯を仲間に引き込むことができた。あとは伯爵と話をして、トアン卿をつるしあげる算段をつければいい」
「ではしばらくは動かないのですね?」
「そうだな。話をすり合わせることになる。……おい、聞いているか?」
「え? あ、はい!」
僕は窓の外をながめてぼーっとしていたが、あわてて殿下の顔を見た。今日の交渉が上手くいったと思ってぼんやりしてしまっていた。
「ええと、話をすり合わせる……ですよね?」
「お前が行け」
「え?」
「ミント伯とのすり合わせだ。お前がパイプ役になれ」
「僕ですか?」
「そうだ」
ビスキュイ殿下は煙管に葉をつめて火をつけた。
「今回、交渉はほとんどお前がやっただろう。この後のことも全て、お前がやれ。その方が面倒ごとが少なくて済む」
「……僕は尻尾ですか?」
「なに?」
「ご指示通り、交渉では殿下の名前を出しませんでした。ミント伯があとになって思い返しても、執事である僕が勝手にやったこと、にしかなりません。パイプ役も全て僕、となれば、どこかでしくじったとき、責めを負うのは僕一人……そういうことですよね?」
「……どういう質問だ、それは?」
殿下は煙を吐き、足を組んだ。
「最初からわかりきっていたことだろう。わかっていなかったのか?」
「薄々は、わかっていました」
「なら、何が問題だ?」
「失敗したときは、切り捨てていただいて構いません」
「当たりまえだ」
「ですが、成功したら、切り捨てないでください」
「ほう……」
殿下は煙管を噛んで笑った。
「どのみち切り捨てられると思っていたわけだな?」
「ゼロではないと思っていました」
「どれくらいだ?」
「五分五分……いえ、六対四です」
「多い方か?」
「多い方です」
「ふむ……」
殿下は返事をせず、椅子にもたれた。じろっとショコラに視線を移す。
「お前はどう思う?」
「この男は切り捨てるべきです」
「お前の希望など聞いていない」
「さきほどまでは切り捨てるおつもりだったのでしょう? お考え直しください。この男は危険です」
「危険? どう危険だと?」
「この男はいずれ殿下の敵になります」
「敵だと……?」
殿下は「わけがわからん」とでも言いたげな目を僕に向けた。僕もわからない。
「どう考えても、こいつが私の敵になるとは思えん」
「彼を甘く見てはいけません。殿下が想像しているよりもずっと恐ろしい男です」
「仮にそうだったとして、だ。なぜ敵になるといえる? 根拠は?」
「勘です」
「勘? 勘だと?」
「そうです」
「……」
ビスキュイ殿下は口を閉ざし、視線を窓の外に向けた。そのまま、屋敷に戻るまで、誰も一言も発しなかった。ただ、殿下が煙を吐き出す音だけが車内に充満していた。




