同じ穴の狢③
僕がそういうと、ミント伯はゆっくりと顔色を変えた。徐々に血の気が失せていく様はなかなか面白いみせものだったが、気の毒でもあった。
「大丈夫ですか、閣下?」
「し、執事殿、そ、そそそ、それは一体……どういう……」
「どういう意味か、ですか?」
ミント伯は真っ青な顔で三度うなずいた。
「そのままの意味です」
「執事殿……」
「失礼しました。ふふふ……」
悪ふざけが過ぎたようだ。殿下のサディスティックがうつったのかもしれない。
「我々は、閣下とトアン卿とのご関係、つまり魔剣の密造について、知っています」
「ああ……!」
ミント伯は頭をかかえた。
「私は、私は卿に脅されただけなのです! 私は、こんな密造になど、手を染めるつもりは……!」
「最初は、粗悪な遺物を加工して、疑似麻薬を作っていただけなのですよね? それを、トアン卿に知られてしまった」
「っ……」
ミント伯はついに呼吸まで荒くなってしまった。
「水を飲まれますか? 魔術で出すことになりますが……」
「いえ……いえ、大丈夫です」
僕はミント伯の呼吸が整うまで少し待った。
「その、通りです、執事殿……。私は五年前まで、麻薬の密造に手を貸していました。その、直接かかわったわけではなく、私が所有している土地の一部を使わせてくれないか、という打診を受けて……」
「そのあたりの経緯はいいのです、閣下。要は、隠し立てなど、無意味だということさえ、わかっていただければ」
「は、はい」
「私から提案したいことがあります。トアン卿の失脚のために、一役買っていただけないでしょうか?」
僕がそう言うと、ミント伯はぱっと顔を上げた。
「今なんと?」
「我々は、あなたの悪事には興味が無いのです。興味があるのは、トアン卿の方なのですよ」
「なぜ、トアン卿の失脚を望まれるのですか?」
「望んではなりませんか? 不自然な望みでしょうか?」
「……いえ、そうですね。彼は、そもそも人の上に立つべきではない。……そういうことですか?」
「同意します」
僕は微笑んだ。
「私も同意見です。ですから、どうか手伝ってはいただけないでしょうか?」
「……」
ミント伯は答えようとして息を飲み、しばらく黙った。ちらちらと僕の顔色をうかがうように見ている。
「なにか、お困りごとでも?」
「いえ、その……」
「トアン卿が失脚するとき、閣下も一緒に責めを負わねばならなくなるのではないか……。そう、危惧されているのですね?」
「そっ、それは、その……。いえ、その通りです……」
「無理もありません。その心配はごもっともです。しかし、杞憂ですよ。殿下は、閣下の行ったことに対してご容赦くださいます」
「ほ、本当ですか……」
「本当です」
ミント伯は、僕の言葉で表情をやわらげたが、しかしまだどこか不安そうだった。おそらく、話がうますぎて罠ではないかと怯えているのだろう。
想定通りだ。
「……まだ、ご心配なのですね」
「いっ、いえ! そんなことは! たいへん名誉なご提案だと思っております。しかし……」
「わかっております。不安なのですよね。ですので、閣下のご心配を少々和らげて差し上げます」
「……?」
僕の言葉の意味がわからなかったのだろう、ミント伯はけげんそうな顔をし、次の瞬間、恐怖にひきつった。僕がマントの中から魔剣を取り出したからだ。
「あっ、あっ、あなたは、わっ、わたっ、私をっ」
「あはは、まさか。殺したりなんかしませんよ」
僕は剣をテーブルにドン、と突きたてた。
「我々は二人三脚の、大事なパートナーなのですから」
「そっ、そそそ、その剣は!?」
ミント伯は、蟻地獄にひっかかった虫のようにソファの上で手足をばたつかせながら剣を指さした。
「どこからそれを!?」
「そこが気になるんですか? 魔術ですよ、もちろん」
「殺したら、殿下でも、さすがに、た、ただでは済みませんよ!?」
「だから、殺しませんって」
僕は苦笑した。どうもいじめすぎたらしい。両手も上げた。剣はテーブルに突き刺さっている。
「それに殿下も関係ありません。こんな風に脅せ、とは言われていませんから」
「え、だ、だったら……」
「ちょっとした、余興です」
「余興!?」
「はい」
僕は笑って、剣を引き抜いた。怒りに表情が変わりかけていたミント伯がまた顔を引きつらせる。僕は剣の刃を自分に、柄を伯爵に向けた。
「どうぞ」
「は?」
「こちらは、私から、閣下へのプレゼントです」
ミント伯はおそるおそる柄に手を伸ばし、つかんだ。僕が手を放すと、剣に顔を寄せてまじまじと観察した。
「これは、魔剣ですか?」
「はい」
「ふーむ……。ずいぶん良い魔剣ですね。どこで購入されたのですか?」
「いえ、買ったのではありません」
「どなたから譲られたと? ああ、殿下ですか?」
「どちらも違います。もちろん拾ったわけでもありません」
「では……」
少し考えて、ミント伯は目を見開いた。
「……作ったのですか?」
「はい」
「どなたが?」
「私が」
「……っ」
ミント伯は、息を飲んだ。
ここだ。
「ミント伯」
僕はテーブルに手をついて、身を乗り出した。
「これで私はあなたと同じ立場。どちらも魔剣を密造した者です。どうですか、私を信じて、協力してくださいませんか?」
「……」
「さあ」
ミント伯は、僕が差し出した手をじっと見つめ、小さくため息をつき、ゆっくりと握りかえした。
「わかりました。あなた達に、協力します」




