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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
薔薇の肖像は冷たく笑う
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同じ穴の狢②

「ずいぶんと身軽そうだが、本当に魔剣は持っているんだろうな」

「もちろんですよ」

「本当でしょうね。殿下に恥をかかせたら……わかっていますね?」

「どうなるんですか?」

「あなたはもう、あの地下室から出ることはできません。ジエンドです」

「怖いこと言わないでください」


 僕たち、つまり僕とビスキュイ殿下、ショコラは馬車にゆられてぬかるんだ道を進んでいた。行き先はミント伯の屋敷だ。魔剣をもって交渉に行くことになった。作った魔剣は十本。ミント伯が作ったであろう魔剣の数に比べれば雀の涙のようなものだろうが、これで同じ土俵に立てるはずだ。話くらいは聞いてくれるだろう。


「段取りは、わかっているか?」


 ビスキュイ殿下は窓の外の景色を眺めながら言った。外には小麦畑が広がっているが、あいにくの曇り空で、黄金の絨毯、という風には見えなかった。

 僕はうなずいた。


「わかっています」

「ならいい。しっかりやれよ」


 さらに三時間ほどで、馬車はミント伯の屋敷へたどり着いた。

 ビスキュイ殿下が、いきなり屋敷を訪ねてきたので、ミント伯は度肝を抜かれたようだった。その証拠に門までミント伯本人が出迎えに来ていたし、馬車の窓から、何度か転んでいるところが見えた。

 そりゃ王家の紋章が入った馬車が約束もなく屋敷の前に止まっていたら、驚くだろうが……。


「やあ、どうも、ミント伯。アポイントメントは無いが、入れてくれないか?」

「こ、これはこれは、ビスキュイ殿下。ご機嫌麗しゅう……。も、もちろんです。どうぞ、お入りください……」

「ありがとう」


 馬車を下りて、屋敷に入った。小雨が降っていたので、その間に少しだけ濡れてしまった。


「こちらです」


 ミント伯は少し息を切らせながら部屋を案内した。あたたかい暖炉のある部屋で、中に幼い子供が二人いた。僕たちをみて目を丸くしている。一人は馬のおもちゃを落として、僕たちを見ていた。


「ああ、すみません。娘たちです。……ほら、お前たち、ご挨拶なさい」

「こんにちは……」「こんにちは!」

「ああ、こんにちは」


 ビスキュイ殿下は僕に対する挨拶とあまり変わらないトーンで返事をすると、子供たちから視線を切り、杖を使って部屋を横断し、中央のソファに腰掛けた。

 ミント伯は子供たちが何か言う前に、追い立てるようにして二人を追い出した。


「すみません、殿下。何かお気に触りましたでしょうか?」

「座れ」

「は、はい」


 ミント伯はあわてて殿下の正面に回り、席についた。僕とショコラは、殿下の後ろに立った。


「今日、私が訪ねた理由だが……」

「は、はい」

「特にない」

「は……?」

 ミント伯は二秒ほど、口をポカンと開けていたが、すぐに意識を取り戻した。

「そ、それは一体、どういう意味でしょうか、殿下?」

「屋敷に引きこもっているのが、嫌になってな。散歩がてら、ここまできて、適当にお前の屋敷に寄った。それだけだ」

「はあ……」

 ミント伯は困り果てたような、あるいは何も考えていないような顔で首を少し傾けている。

「ええと、では、どういたしましょう。あ、そうだ。お茶でもいかがですか? 先日、東の侯爵からよい菓子をいただきまして……」

「いらん」


 殿下は即答した。窓の外に目をやりながら、組んだ足をいらいらとゆすっている。屋敷のどこかから、子供が楽しそうに遊ぶ声が聞こえてきた。


「えっ、あっ、ええと、で、では、その……。お食事を……?」

「食い物ばかりではないか。お前と一緒にするな」

「あの、その……」

 ミント伯は金魚のように口をパクパクさせている。

「おい」

 金魚になったミント伯を無視して、殿下は振りむいた。部屋の隅にいたミント伯の執事に「こちらへこい」と指でジェスチャーした。

「この屋敷で一番静かな場所は?」

「静かな場所ですか……」

「子供の声が聞こえない場所だ」

「……であれば、上の階になりますが、レストルームがございます」

「案内しろ」


 殿下は杖を床にたたきつけるようにして立ち上がった。執事は殿下を先導して進んでいく。

 ミント伯が後を追おうと立ち上がりかけた。

 すると、ビスキュイ殿下は素早く振りかえった。


「私は一人になりたいのだ。伯はここにいるがいい。ショコラは来い。……お前はそこで、ミント伯のお相手をしろ」


 殿下は、最後に僕を指さしてそう言った。

 僕たちは返事をして殿下の命令に従った。ミント伯は絶望した表情でゆっくりと腰を下ろした。

 背後で、扉が閉まる音がした。

 暖炉で燃えていたまきが割れて音を立てた。

 部屋にいるのは、僕とミント伯だけだった。

 ミント伯は泣きそうな顔で僕をみた。


「執事殿、私は何か粗相をしてしまったのでしょうか?」

「……」

「執事殿?」

「私のことですか?」

「あなた以外に誰が?」

「それもそうですね」

 僕は微笑んだ。

「粗相はなかったと思います。むしろ今日の殿下は、機嫌が良さそうでしたよ」

「ご冗談でしょう?」

「トアン卿とのご関係も冗談なのですか?」

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