同じ穴の狢①
ショコラが手に持っていた袋を逆さにすると、テーブルの上に、大量の遺物がばらまかれた。
「おおお……! こんなにたくさんの遺物を見られるなんて、何年ぶりだろう」
「注文通り、遺物を手に入れてきましたよ。これで魔剣を作れるのですか?」
「え? はい、作れますよ」
「呆れた……。一体どこでそんな技術を学んだのですか」
「ちょっと世界一の魔剣鍛冶師に弟子入りしたことがありまして」
「はあ?」
「ええと……まずは炉を作りますね」
ショコラの目が怖くて、僕は作業を進めることにした。
本当のことを言っただけなのだから、そんなににらまないでほしい。
僕たちは、魔剣を密造することにした。密造した魔剣をミント伯に見せて、信用してもらうためだ。
ひょっとすると、ミント伯に見せても大して動揺は誘えないかもしれない。まるで信用は得られないかもしれない。でもたぶん、何もせず手ぶらで行くよりはマシなはずだ。
そのために地下(最初に縛られて放置されていたところ)に、簡易的な工房を作ることにした。遺物を燃やすための炉を作り、魔剣製造の準備をした。いくつか遺物を燃やして、小さな試作品を作ってみた。炉は問題なく作れたようだ。
それが確認できた頃には、部屋にはもう誰もいなくなっていた。どうやらショコラは飽きて帰ってしまったようだ。薄情だが、賢明ではある。ここから何時間もぶっつづけの作業になるからだ。
遺物を選別する。その質と方向性を見定めて、「燃やす」ための遺物と、「素材にする」ための遺物とに分ける。
いつか、リズがずっとやっていた作業だ。正確にはダヴィもやっていたのだが、一次選別はリズがやっていた。あのときは何をしていたのか、まるでわからなかったが……。
テーブルにばらまかれた遺物を、ジグソーパズルのように動かして、この遺物たちが為す魔剣を思い描く。どのピースを使って、どのピースを捨てるのか、悩ましい。
一時間ほどかけて、燃やす遺物を炉に入れた。「火」を入れて、遺物を「燃やす」。燃えているといっても、酸素を消費するわけではないので、室内でも問題ない。まあ、地下なので、普通に換気には気をつけないといけないと思うが……。
ある程度、「火」が安定したところで、「素材」の遺物を炉に投入した。もちろん燃料とは別の口からだ。このまま、遺物が溶けて一体になるのを待つ。方向性はある程度まとまった遺物ばかりだから、爆発したり崩壊したりはしないはずだ。
二時間ほど、「火」の調子をみながら「素材」を追加したりして、魔剣に必要な「鉄」を取り出した。つまり、炉を破壊した。炉は魔剣一本ごとに一つ作り、「鉄」を取り出すときにそれを壊す。
「鉄」を冷ましている間に、炉をもう一つ作った。今度は、魔剣を打つための炉だ。再び、燃料となる遺物を投入し、「火」を熾す。作った「鉄」を焼いて、打っていく。魔剣になるように。
魔術でハンマーを作る。
打つ。
焼けた魔力のこもった欠片が飛び散る。
打つ。飛び散る。
繰り返す。
ハンマーが壊れたら、作り直して、さらに打つ。
そこにこの溶けた魔力のかたまりの本来の姿がある。
打つたびに、そこに近づく。
行きすぎたら戻る……。
そんなことを繰り返すうち、いつの間にか魔剣が一本仕上がっていた。すっかり汚れたテーブルの上にできたての剣を置き、伸びをした。余計な力が入っていたらしく、肩がごきごきと鳴った。
椅子に腰かけた。
心地よい達成感に酔っていると、いつの間にかショコラが立っていた。
「ずっと作業していたんですか?」
彼女はテーブルの上、魔剣の隣に、食事の入ったトレーを置いた。
「朝からずっと?」
「ええまあ」
「もうじきに夕暮れですよ」
「そうですね。一本打ち終わりましたから、そんなものでしょう」
僕は椅子に座ったまま、手の伸ばしてトレーからパンを一つ取った。
「いただきます。いやあ、お腹空いた……」
「これが作った魔剣ですか?」
「はい。あ、できたてなので、触ったらケガしますよ」
そういうと、ショコラはぴたっと動きを止め、いつも通りの直立姿勢に戻った。
「わかっています」
「トアン卿はどうですか。動きは?」
「特にありません」
「じゃあ、ミント伯は?」
「そちらも特に報告は受けていませんね。魔剣の製造先と連絡をとっているはずですが、尻尾はつかめていません」
「では、僕の魔剣が頼りというわけですね?」
「いえ、違います。あなたの魔剣は、多少成功率が増すだけの、ただのオマケです」
「嫉妬してます?」
「鼻をつまみますよ」
「そんな、ちょっとからかっただけ――、いでででででっ!?」




