薔薇の肖像⑥
魔剣の密造は、重罪だ。その罪が暴かれれば、まず死ぬまで檻の外に出ることはできない。実際がどうかは知らないが、貴族だろうと平民だろうとその罪の重さは変わらない。
なぜ、罰がそこまで重いのか。
その話をする前にまず、魔術師がどれくらい強いのか、という話をしよう。基本的にはピンキリだが、防壁がある程度ものになった魔術師なら、まず魔術師でない人間に一対一で負けることはない。防壁が使える時点で、透明な武器や防具が作りたい放題だし、そのレベルになれば、火を放つ魔術くらいすぐに習得できる。体術がからっきし、というわけでなければ、まず後れを取ることはない。
この例は、底辺レベルの話だが、全てのレベルに通じて言えることがある。火の魔術のように、魔術師の怖さは、予測できない攻撃をする、というところにある。
もちろん、火の魔術なら、鉄製の盾があれば防げるかもしれない。しかし、水は? 氷は? 電気なら? 足元の地面の形を変えられたら?
魔術はじゃんけんのようなものだ。それぞれに相性があり、有利不利がある。魔術に長けた者ほど多くの手を持っている。手が多ければ多いほど、圧倒的に有利になっていく。
魔剣の密造に話を戻そう。国の許可なく魔剣をつくることが重罪になるのは、「国の把握していない魔剣」というものがそもそも許されていないからだ。魔剣を使えば、魔術の習得という時間のかかる工程をすっ飛ばして、すぐに「手」を増やすことができる。そんなものが自由にポンポン作られたら、どれほどの脅威になるか。武器の密造だって罪にはなるが、魔剣の場合はその脅威が違うから、より罪が重くなる、ということだ。
ちなみに、僕の支援妖精も密造魔剣に当たるわけなので、バレたら普通にアウトだ。ヤバい時は転移魔術を応用したインベントリの中にしまうから、バレることはないが。
屋敷に戻って、ビスキュイ殿下に、トアン卿とミント伯の関係を報告して今後のことを相談した。
「まあ、そんなところかとは思ってたけどな」
頬杖をついて、ビスキュイ殿下は言った。
「次はどうするつもりだ?」
「ミント伯に協力を取り付けようと考えております」
ショコラが淡々とした口調で答えた。
「ふむ」
「伯は弱みを握られ、トアン卿に従っているだけかと。状況を解決できると提案すれば乗ってくるでしょう」
「断ったら?」
「知っていることをすべて明かすと脅せば済みます」
「……」
「殿下?」
「お前はどう思う?」
ビスキュイ殿下は僕をじろりとにらんだ。
「ショコラの提案に賛同するか?」
「大筋は」
「細かい点では、違うのだな?」
「まあ、はい」
僕はショコラが冷たく横目でにらんでいるのを、こめかみのあたりに感じながら、続けた。
「ショコラさんの提案は、トアン卿に従いつづけるよりはミント伯にとってベターですが、すんなり受け入れるかどうかは疑問です。彼には、我々を信じる要素がない」
「それは仕方ないでしょう。脅せば従います」
ショコラが口をはさんだが、僕は首をふった。
「いえ、信頼させられるならそれに越したことはありません」
「なにか手があるのか?」
「ミント伯が魔剣を密造している罪に目をつぶっていただけますか」
「さあな」
「では……僕が魔剣を密造しても目をつぶってはいただけませんか」
「ほう?」
ビスキュイ殿下は喉を鳴らして笑った。
「その話は少し面白そうだ」




