表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
薔薇の肖像は冷たく笑う
141/163

出入りは自由?⑧

 は?

 ビスキュイ殿下?

 ビスキュイ殿下が、僕をつかまえて、ここに縛って閉じこめたのか?

 なぜ?

 どういう目的で……?


「驚いているね……」


 ビスキュイ殿下は前にあった時と同じ穏やかな笑みを浮かべ、杖にすがりつくようにガッガッと音を立てて僕の目の前まで近づいた。僕の目の、ほんの数センチ前に杖が突き刺さる。

 ビスキュイ殿下はゆっくりとかがみこみ、ささやいた。


「なぜ自分が捕まったのか、なぜ私が捕まえたのか、わからないって顔だね?」

「は、はい。その通りです……」

「ふふふ……。素直でよろしい」


 ビスキュイ殿下はいきなり僕の目隠しをつかむと、何のためらいもなくむしり取った。


「呪われてるんだったっけ。気持ち悪いね。死骸に虫がたかってるみたいだ」

「す、すみません」


 僕は動揺していた。初めて会った時にも思ったが、この人はどうも苦手だ。言動の一つ一つが、こちらの不意を突いてくる。

 まるで心の弱い部分をまさぐられているような気分になる。


「あの、どうして殿下は、僕を捕まえたのでしょうか?」

「君の目が見たいな。これ、もしかして、じっと見てたら、隙間から見えたりするのかな?」

「殿下はもしかしてトアン卿のご友人なのですか?」

「暗いな。ショコラ、ランプを」

「はい」


 男とも女ともわからない中性的で無機質な声がした。ビスキュイ殿下の執事だろうか。タキシードを着ている。「彼」は近づいて、ランプで僕の顔を照らした。熱を感じるほどに。


「ああ、見えるね。これなら、見える」

「ちょっと熱いんですけど……」

「クリム君」

 みると、ビスキュイ殿下は微笑んでいた。

「君は、トアンを殺すつもりだったのかな?」

「えっ? い、いえ! 違います!」


 予想外の質問だった。驚いて、そして次の瞬間、心臓がつぶれるほどのストレスを感じた。

 今、殿下は僕の目をみて判断しようとしていたようだった。質問された瞬間、呪いの隙間から目があったと思う。

 もしも、殿下が「クロ」だと判断したら、僕はどうなるんだ……?


「怪しいのはわかっていますが、そうじゃなくて……」

「なるほど」

 殿下は僕に「黙れ」というように手を振ると、杖に力をいれて立ち上がった。僕の目の前で杖がガリガリと十センチ近くスライドした。

「なるほどなるほど。大体わかった。戻ろうか、ショコラ」

「はい、殿下」

「えっ、あの……何がわかったと……?」

「ふふふ」

 ビスキュイ殿下は扉の前で立ち止まり、振り返って笑った。

「じゃあね、クリム君、また明日」

「え、いや、そうじゃなくて、あの……。えっ、明日?」

「……」


 ビスキュイ殿下は僕のことなどまるきり無視してさっさと行ってしまった。思えば、僕の質問には一度も答えてくれなかった気がする。

 ショコラは何の感情もこもらない表情で僕を一瞬だけ見たが、それだけだった。彼は軽く会釈すると無言で扉を閉めた。扉が閉まる音がすこし反響した。

 そして、暗闇と沈黙の中には僕だけが取り残された。


「……えっ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ