出入りは自由?⑦
結局、当日になってもよい侵入方法は思いつかなかった。このままでは、せっかくのチャンスを不意にしてしまう。それはあまりに惜しいので、僕は未練がましく屋敷の周辺をぐるっと回ることにした。何度も通った道ではあるが、もしかしたら、なにか新しい発見があってすんなりと中に入ることができるかもしれない。
そんな風に思っていた。
思っていたら、いつの間にか眠っていた。
目覚めたら、真っ暗な部屋で、手足を縛られて転がされていた。
訳が分からなかった。一体全体、何が起こったのか。僕はさっきまで、トアン卿の屋敷の周りを歩いていたはずだ。三周目の正面入り口のちょうど反対側に差し掛かったあたりまでは覚えている。裏口に鍵がかかってるかどうかチェックした覚えがある。
それがどうして、こうなる?
僕は魔術の視界で、部屋の様子を確認した。まず光学視界だが、まるで役に立たなかった。部屋はかなり暗い。今日は月のない夜ではなかったはずだから、たぶん地上にある部屋ではないと思う。地下室か何かではないだろうか。そして、空間把握も役に立たなかった。この部屋にはほとんど物がなく、鍵のかかった扉があるだけで、その外に廊下が続いていることがわかっただけだ。有効範囲内に他の部屋もない。わかったのは、本当にそれだけだった。
さらに悪いことに、手足を縛っている鎖のような物体はどうやら破壊できなさそうだった。魔術でも破壊できない。おそらく、アーティファクトの類だろう。魔術そのものは使えているから、魔術阻害系ではない。魔術を吸収するか、無効化するようなタイプだろう。
色々試してみたが、鎖を破壊するのはどうも難しそうだ。鎖が壁に繋がっているわけではないので、一応イモムシのように動けはするが、すごく疲れた。
扉にたどりついたが、開けるのはかなり難しそうだった。内側にノブが無い。押してもびくともしないところを見ると、鍵がかかっているか、そもそも手前に開くタイプかもしれない。扉は重く、ぶ厚い。その上、鎖と同様のアーティファクトでできているようだった。破壊できない。
なんだここは。どこなんだ?
やはり、トアン卿の屋敷の中だろうか。あるいは隠れ家の中とか。後ろ暗い付き合いもあると聞くから、そういうものの一つや二つあってもおかしくない。今日はパーティーを開いているから、そっちの方が可能性は高そうだ。
それにしても、いつからバレていたのだろう。サングラスをかけて変装したり、道の反対側をあるいて距離を取ったりして、けっこう気を使ってたつもりなんだけどなあ……。
待てよ、もしかしたらシャルロット様ではないだろうか。あるいはベルさんか。僕がトアン卿を探っているのを心配して、説教するつもりで僕を捕えた……とか。
そのとき、空間把握になにかが引っかかった。
部屋の外、廊下を誰か、二人組が近づいてくる。
それは、シャルロット様でも、ベルさんでもなかった。
みしみしと音がしてゆっくりと扉が開いた。
真っ暗な部屋にランプの揺れる明かりが差し込む。
かんかん、と木で床を叩くような音がした。
一人が言う。
「お気を付けください。縛っているだけです。攻撃されるかも……」
「ははあ、本当にいるね。本当に姉上の執事じゃないか」
ドアの外に立っていたもう一人は、ビスキュイ殿下だった。
「いや……元執事、だったかな?」




