出入りは自由?⑤
「トアン卿の動向を探っていました」
「なぜ?」
「トアン卿が、シャルロット様の元婚約者で、近々復権するという噂を聞いたからです」
「なぜあなたがそれを知っているのですか?」
「噂の出所を聞いていますか?」
「はい」
「父上です」
嘘をついた。「友人です」と答えれば、それは誰かと問われると思ったからだ。それは避けたかった。
「手紙で教えてもらいました」
「耳ざといお父上ですね。あなたがシャルロット様に仕えているから、その元婚約者に関する噂を聞いて教えてくれたと?」
「そうなりますね」
「本当ですか?」
「そんなにおかしなことですか? 不思議はないでしょう?」
「その手紙を読む限り、そのような気配は感じませんでしたが」
「えっ、読んだんですか!?」
僕は振りかえり、ベッドに投げた手紙の封蝋をたしかめた。封は破られていなかった。封筒の紙も、どこも切れていない。封蝋が偽造されている様子もない。細部まできっちり我が家の家紋だ。
僕はゆっくりとベルさんを振りかえった。
「……鎌をかけたんですか?」
「お父上から聞いた、というのは嘘ですね、クリム・ホワイト?」
「……」
僕は顔をおおった。少し血の気が引いた気がする。
ベルさんは静かに近づいて、僕の肩に手を置いた。
「あなたがシャルロット様の味方であることを、私はわかっています。噂を誰から聞いたかも、問いません」
「では、何を聞きたいんです?」
「戻ってきてください」
僕は顔を上げた。
ベルさんはまっすぐ僕の目をみていた。
「ベルさん、なにかあったんですか? シャルロット様になにか……」
「いえ、まだ」
そういって、彼女は一歩下がった。
「ですが、おそらく苦しんでいるのだと思います。もともと、心の強い方ではありません。普段も、虚勢をはってどうにか体裁を保っているだけなのです」
「虚勢? とてもそんな風には……」
「シャルロット様は私にすら虚勢を張っています」
「どうしてそれがわかるんですか?」
「私にはわかるのです」
「そうですか。どのみち、ベルさんが支えればいい。今までだって……」
「クリム・ホワイト」
ベルさんは少し声を大きくした。
「あなたの存在に……シャルロット様がどれだけ救われていたのか、あなたは――」
「ベルさん」
僕は手をあげてベルさんの言葉をさえぎった。ベルさんが眉をひそめた。その表情は見たことがなかった。今にも泣きだすのではないかと思った。
「わかりました」
顔をそむけて、彼女は言った。
「よく、わかりました。私がなんと言おうと、あなたは戻る気が無いのですね」
「ベルさん……」
「失礼します」
ベルさんはくるりと踵を返し、部屋の入り口のドアを開けた。そのドアを半分ほど閉めたところで、彼女は振り返った。
「この……強情者っ」
そういって、責めるように僕をにらむとドアを勢いよく閉めて去っていった。




