出入りは自由?①
「クリム、あなたはスクエラちゃんのことをどう思ってるわけ?」
「どう、とは?」
火都での事件から、三か月。
僕とシャルロット様、ベルさんは王都の幽霊屋敷にもどっていた。
王都と聖教会から、次の領主と司教がやってきて、あの事件は完全に収束したからだ。
レオンハルト様とキャリオ様は、本来のシナリオ通りに冒険の続きへでかけたが、僕たちはそうではない。ゲームではシャルロット様はそもそもいなかった旅だ。神様の予定する冒険に、僕たちは必要ない。僕が天使に疑われたから、始まった火都への旅であって……。
ああ、いや、思わず思考が脱線してしまった。
「スクエラのことは……友人だと思っています」
「それ、本気で思ってるわけ? あの子にそう言えるの?」
「……何がおっしゃりたいのでしょうか」
シャルロット様が普段とは違う、怒りを押し殺した様子でいきなり僕を詰問しはじめたのだ。キャリオ様から手紙が届いて、それをみんなで読んでいた時だった。手紙は一通だったが、全員が少しずつ書いていた。内容はこうだった。
親愛なるシャルと友人たちへ。
ハロー。キャリオです。そちらは元気ですか?
私たちは、元気です。何度か死にかけましたが、全員無事です。
レオの無鉄砲さには呆れました。基本的には慎重ですが、テンションが上がると、時々私がいることを忘れてしまうのです。まったく、レオの攻撃で何度死にかけたことか……。
砂漠はきつかったですが、なんとかなりました。スクエラさんがいなかったら遭難していたと思いますが。
ここの料理はおいしいです。辛いものが多いけど。
体に気をつけて。キャリオより。
レオより。
おおむね、順調だ。
以上。
追伸。
俺は無鉄砲じゃない。
以上。
リズリーより。
こちらは元気だ。
そちらは元気か?
前は、助けになれず、すまなかった。
またいつか、一緒に冒険したら、そのときは挽回させてくれ。
以上。
追伸。
レオ、それは誰にむけてのメッセージだ?
それと、言っておくが、お前は無鉄砲だ。
以上。
スクエラです。お元気でしょうか?
キャルが書いているように、こちらはみんな元気です。
最初は暑くてへろへろになりましたが、ちょっとずつ慣れてきました。つまり、物陰に入ればいいのです!(^^)
私たちはもう、目標の街につきました。
いまは、任務の開始日まで暇を持て余している感じで、レオがいきたいというので近くの迷宮を一つずつ制覇しているところです。
(私も、少々無鉄砲だと思います!)
以上です。スクエラより。
追伸
クリムへ。元気ですか?
早くあなたに会いたいです。
スクエラより、愛をこめて!
「これを……これを、スクエラちゃんが、冗談で書いたって、言うわけ? あなたは」
「……」
「答えなさい、クリム」
「はい。キャリオ様と一緒にきゃーきゃー言いながら書いていたのだろうと、思っています」
「そうね、そうかもしれないわね」
言葉とは裏腹にシャルロット様は鋭い目で僕をにらんだ。
「でも、本気だってこともわかるわよね、あなたなら」
「それは質問ですか?」
自分が少し感情的になっているな、と思った。
「スクエラが本気でこれを書いていたとして……それがなんだと?」
「……もう一度言ってみなさい」
「シャルロット様には、関係のないことだと言っているんです、僕は」
「お前は……」
僕が覚えている限り、シャルロット様は初めて僕のことを「お前」と呼んだ。
「もしもスクエラちゃんが、結婚してほしいと言ってきたら、どうするつもり?」
「断ります」
「理由は?」
「答えられません」
「……」
「……」
僕もシャルロット様もしばらくなにも言わなかった。僕たちはじっとお互いをにらみ合っていた。ベルさんは同席していたが、なにも言わず息すら殺して、不安げに僕たちの様子をうかがいっているようだった。
「まさかとは、思うけど、私とどうにかして結ばれようなどと、考えているわけではないわよね」
「まさか」
僕は鼻で笑った。シャルロット様が顔をしかめた。
「そう。分不相応なことを考えていないようでよかったわ。執事が愚かでなくて、よかった」
「嫉妬しているのですか?」
「まさか」
シャルロット様は僕を真似たのか、鼻で笑った。思ったよりも腹が立った。
……僕が、一体全体誰のために、どれだけの時間をかけて準備をしてきたのか、当の本人は何も知らない。そりゃ当然だ。僕が言わないと決めたのだから。
スクエラを見捨てると決めたのも僕だ。こうしてシャルロット様に責められるかもしれないと、覚悟もしていた。
しかし、思ったよりも腹が立った。立ってしまった。
シャルロット様は続けた。
「今のは本気かしら、それとも冗談?」
「どうでしょうね」
「……」
シャルロット様はじっと僕の顔を見ている。完全な無表情ではない。
「クビにする、と言ってもその態度は変わらないのかしら」
「その態度、というのは? それほど無礼だったでしょうか?」
「違うわ。そんなことじゃない。スクエラちゃんのことよ。彼女の気持ちを踏みにじるのは、やめなさいと言っているの」
「態度をあらためなければ、クビにすると?」
「そう」
「……」
冷静に考えれば、取るべき選択肢は一つだった。
クビになるわけにはいかない。僕が介入したことで、シナリオは崩壊しつつある。シャルロット様から目を離すのは危険だ。できるだけ近くにいるべきなのだ。
そうだ。簡単なことだ。スクエラへの態度をあらためればいい。シャルロット様から、スクエラを大切にしているようにみえれば、それでいい。難しくない。放っておいてもスクエラはアプローチをくれる。僕はその全てに、ただ答えればいいだけだ。それでシャルロット様は納得するだろう。
簡単なことだ。今後僕がどうなろうとも、知ったことじゃない。たとえ、僕が死んで、スクエラがどれほど悲しもうが、そんなことは関係ない。なにせそのころ僕は死んでいる。気にする必要がない。気にすることもできない。
簡単なことだ。
……冗談じゃない。
「わかりました」
僕は、スクエラたちからの手紙をすっと、シャルロット様の方へずらした。シャルロット様の顔色が少し変化するのがわかった。やや血の気が引いたように感じた。ベルさんが息を飲んだような気がした。
「僕はこの屋敷を出ていきます。今までお世話になりました」




