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火都のある日常の話⑤

「……というわけで、レオンハルト様には、クリムがキャリオ様にマッサージするのを止めていただきたいのですが……」

「話はわかった。ありがとう、スクエラ」


 私がシャルロット様、ベルさんと一緒に、レオンハルト様の部屋を訪ねたとき、彼はリズリーと腕相撲をやっていた。

 もっと他にやることはなかったのか、と言いたいのをぐっとこらえて、私たちはこれから起こるであろう一部始終をレオンハルト様たちに伝えたというわけだ。


 すっくとレオンハルト様は立ち上がった。


「よし。では、俺がクリムを止めてこよう」

「ありがとうございます。助かります」

「ありがとう、レオ」

 シャルロット様も微笑んだ。

キャル(あの子)に浮ついた噂が流れたら大変だものね」

「あ、そういうのを気にされていたんですか?」

「どういう意味? スクエラちゃん」

「いえ、なんでも……」

「どのようにクリム・ホワイトを止めるのですか?」

 ベルさんが尋ねると、レオンハルト様は重々しくうなずいた。

「どうもなにも、力ずくだ」

「なるほど。言いたいことはありますが、私としては異論ありません。あなた様であれば、一番確実な方法でしょう」

「そう褒めるな」

「褒めてません。一切」


 ベルさんはピシャリというと、シャルロット様を見た。


「私たちはどうしますか、シャルロット様。せっかくですから、私たちも温泉に行きませんか?」

「どのあたりがせっかくなのかわからないけど、いいわ。顛末がどうなるのか見届けたいし。面白そう」

「スクエラさんはどうしますか?」

「ええと、私は―――」

「すまないが、俺はもう失礼する」

 私が答えようとしたところで、レオンハルト様は席を立った。

「事態は急を要するようだからな」

「? たしかにキャリオ様たちは先にいきましたけど、マッサージは温泉の後ですから、猶予はありますよ。急を要するってほどじゃないんじゃあ……」

 私がいうと、レオンハルト様は返事をするのももどかしい、といった様子で首をふった。

「違う。温泉に入っているとき、こそが重要……。ねらい目じゃないか」

「「「……?」」」


 私、シャルロット様、ベルさんはそろって首をかしげた。

 ただ、リズリーだけはなにかに気づいたらしく、顔をしかめて立ち上がった。

 シャルロット様がいう。

「よくわからないわ。どういう意味かしら?」





「だから……、キャリオ様が入浴しているところをのぞくなら、今しかないと言っているんだ!」

「ん?」「えっ?」「は?」

 私たちは、あまりに予想外の返答に固まった。


「ああ……」

 ただ、リズリーだけは想定内という様子で手で顔を覆っていた。

「レオ、ちょっと待て……」

「いや、待たない。また俺を止めるつもりだな、リズリー?」

 レオンハルト様はリズリーを制すように手を出した。

「その手は食わない。何度失敗しようとも、俺はあきらめない!」

「いや。あきらめる、あきらめない以前に、チャレンジするのをやめろ」

「止めるな、リズリー! 俺は行く!」

 レオンハルト様は叫ぶと、止めようとするリズリーをかいくぐり、部屋を出ていった。

「御免!」


 レオンハルト様が出ていって、ようやく私たちは事態が飲み込めるようになってきた。


「あ、あいつ、いま堂々とキャリオ様の裸をぞきにいく宣言をしましたか? 私たちの前で?」

 ベルさんは「汚物が通りすぎていきましたか?」というときと、おそらく同じ表情で言った。

 シャルロット様がうなずく。

「言ったわね」

「あのクソ野郎!」

 ベルさんがドスの利いた声でいう。

「どういう神経してるんだ!?」

「ベル、口が悪くなってるわよ」

「失礼しました。ですが、悪くもなります」

「そうねえ……。あれ? 大丈夫、スクエラちゃん?」

「あ、いえ、その……」

「大丈夫ですか、顔が真っ赤ですが」

「そ、その、のぞきがどうとかって、ええと……」

「ああ。意外とうぶなんですね、スクエラさん」


 ベルさんに言われて、私はうつむいた。


「すみません、まさかこんなことになるなんて……」

「スクエラちゃんのせいじゃないわよ」

「そうです。すべてあの変態エセ勇者のせいです」

「変態だけど、エセではないでしょ……」

「申し訳ない」

 リズリーは頭をさげた。

「あいつが性欲に忠実なことを知っている俺が、話を聞いたときに予想するべきだった。本当にすまない」

「せ、性欲……」

 私は目が回りそうだった。


「スクエラちゃんはついて来ない方がいいわね」

「い、いえ、私も行きます……」

「シャルロット様も残っていてください。変態が出没する以上、現地には行かせられません。キャリオ様に危機を知らせる役は、私が」

「そうね……。ベルは先に行って、キャルに知らせてきてくれる?」

「シャルロット様は―――」

「行って。ベル」


 シャルロット様は厳格な口調でいった。


「いま、キャルを救えるのはあなただけよ」

「……わかりました。来ちゃダメですよ!」

「行きなさい!」


 ベルさんは音もなく、部屋を出ていった。いまごろは、廊下をものすごい速さで走り抜けているのだろう。


「さて、私たちはどうしましょう。スクエラちゃんは?」

「い、行きます。シャルロット様は?」

「行くわよ。レオンハルトが女湯にいるかもしれないけど、わかってれば裸みられるようなことは無いでしょ。リズリーは?」

「……俺は待っている。戻ったら殴っておこう。それでいいか?」

「ええ、お願い」


 シャルロット様はうなずいた。


「まあ、私も殴れるなら殴るけど」

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