火都のある日常の話④
僕はキャリオ様のマッサージについてきただけだけど、折角なので温泉に入っていくことにした。別にダメってことは無いだろう。
王都や火都の建物は大体が西洋風というか、石やレンガでできたものが多かった。だから、温泉もそういう石造りの西洋風なところなのかと思っていたが、外観から内装までかなり和式に近かった。木造の老舗旅館という感じ。木々が生い茂る庭があったし、どうも温泉は露天風呂になっているらしい。
これは思ったよりリラクゼーション効果がみこまれる。懐かしいし、ぜひ入っておきたくなった。
脱衣所で服を脱ぎ、身体を洗って、湯船につかる。
ああ~……。
やっぱり温泉はいい……。
泉質がどうとかはさっぱりだけど、温かいお湯につかるとやはり心身ともに癒されるものがある……。
はあ……。
僕は浴場をみわたした。
他に人の姿はみえなかった。昼間だったせいだろうか。みんな忙しいのかな。でもさっき歩いてる人たちがいたから、たまたまかな……。
……。
なんとなく、そう、本当になんとな~く、視線が女湯の方へむいた。
……あの壁の、薄っぺらい木の板きれのむこうで、キャリオ様が入浴してるのか……。
服を脱いで、湯船につかってるのか……。
そんなことを考えていると、唐突に浴場の扉がバァーン!と開いた。
戸口にはレオンハルト様が仁王立ちで立っていた。
じろりと浴場を見渡し、僕に気づいた。
「あ、レオ―――」
僕がいいかけると、レオンハルト様は鬼気迫る表情で、だん、と音が鳴るほどの踏みこみで近づいてきた。というか、突進してきた。
床を踏み割るのではないかと思うほどの勢いで僕の隣に詰め寄ると、僕の口をふさいだ。
「静かにしろ」
いつも以上に真剣な表情だ。なにかの異常事態だろうか。
キャリオ様を襲うために、この温泉に邪教徒が侵入した、とか。
僕はこくこくとうなずいた。
レオンハルト様は「よし」と手を放した。
彼はゆっくりと、女湯の方を指さした。
「キャリオ様は……、むこうか?」
「はい」
「よし」
レオンハルト様はうなずくと、女湯の方へ歩き出した。
やはりキャリオ様がらみか。本当に邪教徒なのか。
物騒な話だが、レオンハルト様の様子からすれば、それくらいの事態なのは察しがつく。
僕は湯船からあがった。
「手伝います」
「ダメだ!」
レオンハルト様は即座に叫んだ。そして、大声を出したことにあわてて、小声で言い直した。
「何を言ってるんだ。ダメに決まってるだろう」
「僕だってなにかしらのお役に立てます」
「役に立つ、立たないの問題じゃない」
レオンハルト様はふりかえり、僕の胸を小突いた。
「君にやらせるわけにはいかないんだ、この仕事は」
「多少の汚れ仕事をするくらいの覚悟はできています」
「多少?」
レオンハルト様はせせら笑った。
「多少じゃない。全てお前が悪い、そう責められても仕方がないことだぞ。わかってるのか?」
「平気です」
「そうか。いい覚悟だ。なら……」
レオンハルト様は仮想物体で剣を生成した。
「俺たちはここで戦うしかあるまい」




