火都のある日常の話②
ドンドン、ドンドンドン!
私は部屋のドアを乱暴にノックする音で目が覚めた。
「誰……? こんな時間に……?」
私はちらりと時計を見た。午前十時。まだ朝じゃない。
ドアはまだけたたましくノックの音を響かせている。
「スクエラちゃん! 大変! 開けて!」
ドアの向こうからシャルロット様の声がした。
私はあわててドアを開けた。
「ああ、開いた! あのね、スクエラちゃん、大変なの! あのね……。あの……、スクエラちゃん、いいかしら?」
シャルロット様は珍しく困惑した様子だった。
「なんでしょう」
「とりあえず……、服を着ましょうか」
私は自分が下着しか身につけていないことに気づいて、小さく悲鳴をあげた。
***
「失礼しました……」
「いえ、いいのよ。急だったものね」
「ですが、あの格好はないかと」とベルさん。
「しーっ! ベル! しーっ!」
「……それで、あの、大変なことというのは……?」
立ち話というわけにもいかないので、私はシャルロット様とベルさんを中にいれた。二人は躊躇なく部屋中央のテーブルに腰掛けて、私が着替えるのを待っていた。どこから持ってきたのか、いつの間にか紅茶を飲んでいる。私が着替え終わると、私にもカップが差し出された。
誰がこの部屋の主か、わからない。
「大変なことというのはね」
シャルロット様がぐいと身を乗り出してきた。さらに、くいくいと手招きするので、私も耳を寄せた。
「クリムが、キャルで、温泉がマッサージなのよ!」
「……なんと?」
「落ち着いてください、シャルロット様」
ベルさんが口をはさんだ。
「私が代わりに言います。いいですか、スクエラさん……。
クリム・ホワイトはマッサージで、キャリオ様の温泉なのです」
「……いやだから、わかりませんけど!?」
ちょっと考えたけど、やっぱりわからなかった。二人ともどう考えても支離滅裂だった。
「だから!」「ですから!」
二人は同時に叫んだ。
「キャルが温泉マッサージのためにクリムを連れてっちゃったのよ!」
「クリム・ホワイトが温泉上がりのキャリオ様にマッサージするためについていきました!」
「……なるほど」
二人の言っていることはわかった。
わかりたくなかった、ということがわかった。
***
「キャルは天然だから、わかってないけど、これはちょっとした事件よ。なんとしてでも二人を止めないと!」
「どうしてその場で止めなかったんですか?」
「だってキャルがあんまり楽しみにしてるもんだから。さすがに私だって、良心がとがめたのよ」
「良心……?」
「どうしてそんなに不思議そうな顔をするの、スクエラちゃん……?」
「あ、いえ、失礼しました」
しまった。顔に出てたのか。
「それで、どうして私のところへ?」
「味方は多い方がいいもの。あなただって面白くないでしょ? キャルに取られるような気分なんじゃない?」
「否定はしません。わかりました。私も協力します」
「よし」
シャルロット様は手を差し出した。私はその手を固く握り返した。
「一緒にマッサージを止めましょう」とシャルロット様。
「それは良心がとがめないのですか?」
「犯人が私だとバレなければ、とがめないわ」
「シャルロット様の良心、ガバガバですね」
「ふふふ、褒めても何も出ないわよ」
「いえ、褒めてないです」
私はため息をついた。
「ええと、わかりました。バレなきゃいいんですね?」
「なにかアイデアがあるの?」
シャルロット様はぱっと笑顔を見せた。クリムがコロっとなるのも無理はないな……、と私は思った。
「はい。私たちが直接止めたら、バレちゃうので、助っ人を読んでその人に止めてもらいましょう」




