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……ってことがあったんだけど

「……ってことがあったんだ」

「……みんな、死んじゃったのかな」

「たぶんね」


 僕は微笑んだ。

 彼らの名前については「聞かなかった」ことにして、伏せて話した。教本のくだりも省略した。


「彼は二人を傷つけたくなかったんだと思う」

「それ以上はわからないの?」

「まあ、ね。たぶん、死んだのは全員じゃなかったと思う。彼も生き残ったわけだし。何人かは生きて外に出たんじゃないかな。でも、少なくとも半数以上は……」

「二人の、親しい人たちは……?」

「確認してない」


 僕は嘘をついた。


「彼らとはそこで別れたから」

「え、本当に……?」

「うん。わからない」

「え……」

 スクエラの顔色がさーっと悪くなるのがわかった。

「わからないの? 私、これから、わからないままベッドに戻らないといけないの? 眠れる気がしないんだけど……」

「けっこう感受性が高いんだね」

「馬鹿にした、いま?」

「ほ、ほめたんだよ」

「うう……、粘るんじゃなかった……」

「欲張るからだよ」

「もう!」


 スクエラは怒って僕をぽかぽか叩いた。


「話してくれてありがとう! でも、眠れない話をするなんて!」

「聞けて良かった?」

「それは……、わかんないわよ!」

「そう。それはごめんね」

 僕は立ち上がった。

「もう寝ようよ。話し過ぎた。明日は寝不足だよ」

「うん」


 スクエラも立ち上がった。ひかえめにあくびをする。

「クリムが行ったから、二人は助かったんだね」

「そうだね……。でも、それでよかったのかどうかは、まだわからないよ」

「え?」

「まだ僕も、助けた二人も子供だけど……。もう十年もすれば、大人になる。そのとき……、二人がどんな人間になっているのか、それは誰にもわからない」

「……」


 スクエラはちょっと悲しそうな顔をして……、すぐに、ニヤッと笑った。


「大丈夫じゃないの?」

「え、どうして?」

「邪教徒じゃないクリムが助けたから。助けてくれた人がいるって覚えていたら、めちゃくちゃな人にはならないわよ。きっとね」

「そうかなあ」

「そうよ」


 楽観的過ぎる、と僕は思った。

 邪教徒ではない外の人間である僕に救われたから、二人は見境のない人間にはならない、ということをスクエラは言いたいのだろう。

 でも、二人の大切な人たちを殺したのは、聖教会騎士団……つまり、僕と同じ外の人間だ。

 僕たちからすれば、それはおおむね正義だと思う。邪教徒は、僕たちにとって、悪だからだ。

 でも、二人からすれば、「悪」は紛れもなく外の人間だろう。いきなり日常や大切な人たちを奪ったわけだから。

 だから、僕が二人を助けたからといって、恩義を感じてくれると信じるのは難しいと感じる。


 まあ、だからといって、二人を助けるべきじゃなかった、とも思わない。

 ただ、助けても助けなくても、どちらも「正義」にはならないのだと思う。


 それが少し、心細いだけだ。

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