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はじめての迷宮の話⑮

「あ、起きた」

 ユンかフロイの声が聞こえた。

 二人は双子なだけあって、時々どちらの声かわからない。

 起き上がると、身体からざらざらと大量の枯葉が落ちた。そんなに長い時間眠っていたのだろうか、と一瞬思ったが、ユンがげらげらと笑っている。どうやら彼女のイタズラのようだ。


「ええと……、どうなったの?」

「重かった」

 フロイが不機嫌そうに言った。

「眠ったあなたを運ぶのは大変だった」

「そうだね、へとへとになったよ」とユンが笑う。

「それは、ありがとう。いや、そうじゃなくて……」

「……睡眠魔術は、あいつに当たらなかった。かかったのは、あなただけ」

 フロイが言い、ユンがうなずいた。

「あの後、何も言わずにどっか行った」

「どっか行った?」

「そう。ホントだよ。どっか行ったの」

「え? 本当に?」

「「うん」」


 二人してこくりとうなずいた。

 ちょっとよくわからない話だが、嘘をついているような気配はない。少なくとも僕には見抜けない。

 本当なのか?


 そういえば、斥候あいつは僕が子供だと知って動揺していたようだった。子供がさらにまだ二人もいると知って、戦う気をなくしたのかもしれない。


 うーん、なんだか都合がよすぎるというか、ピンと来ないけれど……。まあ、あいつもいないし、確かめようもない。そもそも確かめたくない。会いたくない。

 気にしても仕方ないことだろう。


 よし、と僕は立ち上がった。


「イニチェとの合流地点に行こうか。遅れてるし」

「遅れたのは兄ちゃんのせいじゃん!」

「そーだそーだ」

「眠らせたのは、君たちじゃないか」

「運んだのも私たちだから、それはそれで相殺してる」

「そうなの!?」

「そう! だから兄ちゃんの負け! 兄ちゃんのせい!」

「ええ……? そんなあ……」


 全部僕のせい、という結論が出た後、僕たちは合流地点へとむかった。





 ***





「今日はずいぶんと活躍したようだね」

「団長……。ありがとうございます」


 俺はすっかり汚れた魔剣を払ってから、鞘に納めた。団長は地面に転がる邪教徒たちをながめながら近づいてきた。


「君はこういう仕事は好きではないのだと思っていたよ」

「俺も、聖教会に属する身です。なにより、我らが神の教えに背く連中と、わかり合うことができない以上、こうなることは仕方ないかと」

 俺は動かない邪教徒の一人を見ながら言った。

 団長はうなずいた。

「君の信仰と献身には頭が下がる。その若さでそれだけの強さと精神を育てたことをもっと誇るといい」

「ありがとうございます」

「大導師の護衛師ガードを何人かここで始末できたことは我々にとって暁光だった。君のおかげだよ。本当によくやった」

 団長は俺の肩に手を置いた。


「さすがは、次期勇者だな。レオンハルト殿」



 ***



 しばらくして団長は仕事に戻った。

 俺と違って、戦うだけが仕事ではないのだ。

 それは彼ら、他の騎士団員達も同じ。結局、俺は【狩人ハンター】にすぎない。ただ強さを見込まれて参加をゆるされただけだ。

 そういうわけで、俺はすっかり暇になってしまった。


 どこへ行っても、騎士が忙しそうに歩き回り、調査している。俺はまだ誰もいないらしい民家の一つに入った。

 座りたかった。

 死体のない部屋と、壊れていない椅子を探す。

 ようやく見つけて腰を下ろす。体重を感じる。生き返ったような気分だ。ずっと死んでいたような錯覚さえ覚える。


「信仰と献身か」

 気づけば、団長に言われた言葉を復唱していた。


 団長のいうように、本当に俺に信仰と献身があるのなら、俺はあの三人を見逃すべきではなかったのではないだろうか。

 いや、見逃すべきで、俺が正しかったのか。

 いや、見逃すべきじゃなかくて、俺は間違えたのか。

 わからない。

 わからない……。





『その人は邪教徒じゃないよ!』

『その人は邪教徒じゃないです!』

 暗闇から聞こえた二人の声が耳に残っている。


 二人が放ったと思われる魔術は回避した。その場に残った「密猟者と名乗った少年」は動かない。魔術のせいだろうか。眠っているように見えた。

 二人は続けた。


『彼はただのよそ者なんです! 私たちを逃がすためについてきてくれただけなんです!』

『そうだよ! 兄ちゃんは悪いことしてない!』

『……』


 俺はあのとき、どうすればいいか、わからなかった。

 邪教徒は、フォルトゥーナ神に背く悪しき者たちだと信じていた。大人も子供も関係なく、悪しき考えに染まっていて、今生では救われない魂だと聞いていた。

 その考えは、今でもあまり変わらない。今日だって、何人殺したかわからない。誰も彼も、憎悪のこもった目で俺をにらんできた。俺を「敵」だと憎んでいた。

 しかし、それは慣れてしまえば大して動揺しない視線だった。つまり、彼らが「悪」だということからそれほど外れない視線なのだ。

 彼らが悪だから、善である俺をにらむ……、そういうことだと。


 しかし、あの二人の声は、違ったように思えた。

 違った。なにかが決定的に違った。

 俺は、あの瞬間、あの二人を「敵」だとはどうしても認識できなかった。


 あの二人が邪教徒だということはすぐにわかった。

 二人の言葉からそれは明らかだった。

 二人は敵だった。いま、俺にとっての脅威ではなくとも、生かしておけば、何年後、何十年後かわからないが、また新たな芽を育て、新たな脅威になる。

 だから、邪教徒は子供でも殺さなければならない。

 聖教会はそう公言してこそいないが、内々ではその不文律が通っている。それは鉄則と言ってもいい。

 論理的で、感情的で、合理的なルールだ。





 邪教徒は敵である。

 俺の中で、その鉄則にひびが入ったような気がした。

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