はじめての迷宮の話⑬
僕たちはそのまま迷宮を、イニチェのいう裏口にむかって進んだ。
魔物はいない。邪教徒たちが普段から狩りをしているせいだろうか。あるいは騎士団の気配を感じて、魔物たちもどこかに逃げたのか。
心なしか、迷宮が異様なまでに静まり返っているように感じた。数か月前に、遺物を密猟に来た日を思い出しても、もっとなにか命の気配があった気がする。たぶん、ヤモリのような小さな魔物の姿が全くみえないことが一番わかりやすい違いではないだろうか。
これが嵐の前の静けさというやつなのだろうか。
騎士団がすぐそこまで来ているのを肌で感じる。
二人は僕が守らなければ……。
「なんだかピクニックみたいだね」
僕の決意などいざ知らず、ユンがのんきに言った。
「いつも村から出してもらえないから、ワクワクする」
「ユン、気を抜きすぎ」
フロイは逆に緊張しているようだった。声がこわばっている。
僕はフロイが少し心配になった。だから、ユンのノンキさに乗ることにした。
「村から出られないの?」
「うん。大きくなるまではダメだって、言われてる」
「こんな時にする話? 見つかったら殺されちゃうのに?」
「見つからないって。見つかっても、兄ちゃんが助けてくれるし」
「そうだね」
僕は笑ったが、フロイはぷいと顔をそむけた。
「いまさらだけど、どうかしてた……。この人のこと、全然知らない……」
「んー、私はいい人だと思うけどなあ」
「ユンは誰だってそう言うでしょ」
「えへへー、まあ、そうなんだけど」
ユンはへらへらと笑った。
「でも、フロイだって同じでしょ。いい人だと思ったからついてきたんでしょ」
「そうだけど……。イニチェ様も騙されたのかもしれないじゃない」
僕本人を目の前に言いたい放題だな。
口をはさんだ方がいいだろうか。
いやでも、なんて言ったらいいかわからないな。
「イニチェ様さえ騙せるなら、それはそれですごいことだよ」
ユンが言った。
「そんなにすごいなら、騎士団だって騙せるって」
「いや、そういうことじゃ……。まあいっか。もうこんなところまで来ちゃったし……」
ずいぶんと暗くなってきた。
最深部は魔力が濃いために、燐光があって少しは明るいが、このあたりはもう燐光がほとんどない。目を凝らしても何も見えなくなってきた。
明かりはつけなかった。
僕たちはなんとなく気まずくなって、黙ったまま歩いた。道は聞いていたから、迷うことは無い。僕は【空間把握】で壁や地面の凹凸をさけながら、二人の手を引いて進んだ。
数分間、歩いたところで、ユンとフロイが僕の手を握る力を強めた。それはいたずらの類ではなかった。
前方に、ランプのような動く明かりがあった。明かりは一つだった。近づいてくる。
おそらくは騎士団の斥候だろう。
そのランプに照らされて、裏口への分岐の目印が照らされた。目印と言っても、魔物の骨でつくられたオブジェクトだった。あからさまな人工物ではない。自然に見えるように偽装されていた。ユンとフロイに聞いていたからわかっただけ。気をつけて見なければ、見落としていただろう。
つまりは、僕たちが裏口への道を進みたければ、目の前の斥候をどうにかしてやり過ごさなければならない、ということだ。
ランプを持った斥候を。




