はじめての迷宮の話⑫
イニチェは足元で伸びている看守のポケットをまさぐって、鍵を取り出した。鍵穴に入れて回す。
「さあ、出ろ」
僕は言われるがまま、牢を出た。
イニチェは僕とユン、フロイを促して歩かせた。
数か月ぶりに、僕は地下牢を出た。最深部の空間の広さにめまいがしそうだった。
警鐘はずっと鳴っているし、怒鳴り声があちこちで聞こえてくる。男たちは手に手に武器を取り出口へ、女子供は大慌てで奥へ走っていく。
「門を出たら、裏口を目指すんだ」
「裏口?」
「迷宮の正面玄関ではない、出口だ」
「入り口の方へ戻らないといけないのか?」
「そうだ。ここは行き止まりなんだ。少し戻らないと、裏口には行けない」
なんて安全性の低い隠れ家なんだ。
「裏口はバレているか?」
「聖教会に? ありえないな。ここが廃棄された後で、俺たちが作った抜け道だからな。予想しているかもしれないが、出たら囲まれてました、なんてことはない」
「でも、未知の魔術とか、魔剣とかで知られていたら……」
「心配しすぎだ!」
イニチェは舌打ちした。
「そんときゃ、潔く死んでくれ」
門が見えてきた。
槍を持った男たちが並んでいる。何人かが、僕たちに気づいてさらに目を血走らせた。
「村人の説得は?」
「してない。絶対に挑発するなよ。殺気立ってるからな」
「見ればわかるよ」
「俺の説得が上手くいくよう、祈ってろ」
「決裂したら?」
「その場で殺されるか、人質にされるか、八つ裂きにされるのがオチだ」
「どれがオチなんだ?」
「とにかく大人しくしてろ」
門まわりの指示役らしき人物がでてきて、イニチェの前に立った。軽く礼をする。
「イニチェ様」
「ご苦労様。首尾は?」
「上々です。みな、士気が高い。死に物狂いで戦ってくれるでしょう」
「心強いな」
「それで……」
指示役は僕たちをじろりと見た。
「なにゆえ、そいつと子供らがここにいるのですか? そいつだけなら、人質だろうと合点がいくのですが」
「三人には逃げてもらうつもりだ」
「なぜその三人なのですか?」
指示役の声には、押し隠してはいるものの紛れもない怒りがにじんでいた。
「外からの侵入者と、いたずらっ子の孤児を、あなたは選んだという。納得のいく説明がほしいものです」
「後じゃ、ダメか?」
「ダメですな」
「ユンとフロイは【羽衣】が使える。この村の誰より上手に。知っているな?」
「……」
「そいつは、俺たちの仲間じゃない。だから、万が一見つかったとしても、助かるかもしれない」
「確証などないでしょう」
「藁にも縋りたいんだよ、俺はな」
イニチェは一瞬笑うと、すっと真顔になった。
「命令だ。三人を通せ」
「……御意」
指示役は一礼すると、手を上げて合図をした。
「門を開けろ!」
男たちがいそいで機械を回して、門を開いた。
門のむこうに暗闇が口を開く。
僕たちは、イニチェと男たちに見送られて、村を出た。




