はじめての迷宮の話⑦
僕はそのまま数日ふて寝した。
嘘だ。
本当は時折、仮想物体を作って遊んだりした。時間が無くて保留にしていたアルテミスの改良をしたり、アルテミスやインベントリの魔力を補充したり。
しかし、そういったことは普段やっていることだ。真新しいことはない。
インプットが無い。文字が無い。本が無い。新しさに触れることができない。こんなことなら、インベントリに本の一冊でも入れておくべきだった。僕は猛烈に後悔した。
気分的には「停滞」もいいところだった。
実際、ふて寝している時間が増えていたし、気分的にそう思ってもさしつかえないだろう。
「いいご身分だな」そう言ってくる看守をにらみ返して、彼がいなくなった隙に本を取り出した。
看守たちが「教本」と呼んでいた、白紙の本だ。
白紙だからとインベントリにしまい込んだままにしていたけど、よくよく考えればおかしな話だ。白紙の本を教本などと呼ぶはずがない。なにか細工があるのだろう。
正直、邪教徒たちの信じている内容に興味はない。ゲームで彼らの目指している方向性はおおよそわかっていたからだ。
しかし、僕はとにかく暇だった。
ページを調べ、凹凸を調べ、表紙を調べ、背表紙を調べた。物理的な仕掛けは無かった。
だが、魔術的な仕掛けは見つけることができた。
ページは白紙だが、試しに一部で昇華を発動してみると、小さな赤紫の炎が発生した。
ビンゴだ。
この本は仮想物体製の透明インクで書かれている。おそらく、何らかの魔術で活性と非活性を切り替えられるはずだ。
あとはそのスイッチを見つけるだけだ。
***
教本を読めるようなるまで三日ほどかかった。
結局のところ、スイッチの正解がどんなものかなど、関係はなかった。要は読めるようになればいい。
インクがどう描かれているか、なんという文字が書かれているか。それがわかればいい。
僕はこの本そのものは破壊してしまうことにした。
ページのインク全体に昇華を実行し、発光した瞬間、アルテミスでページを撮影する。撮影した画像から、文字を抽出すれば書かれていた内容が読める、という寸法だ。
残念ながら再現率は100パーセントとはいかないが、90以上はある。魔導書の写本ミスのひどいバージョンと思えば、読めなくもない。
読み進めていくうち、この本のおおよその内容がわかってきた。看守たちが教本と呼んでいたから勘違いしていたが、これは邪教……シーザー教の教典ではない。
シーザー教が説く、世界の形だとか、教徒の心構えとか、ルールについて書かれたものでは、ない。
これは魔術の教本だ。
それも普通の魔術じゃない。
シーザー教の教徒が使う魔術の、教本だ。




