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はじめての迷宮の話⑤

「じゃー、おめえは導主様のお友達の息子だってんだな?」

「ええ、そうです」


 僕は自然な微笑みを浮かべた。


 あのあと、大声の男は物置小屋の外へ出て、「侵入者だー! 外の者だー!」と大声で叫んだ。僕たちは観念して、床に下りた。そこへ、村人たちが大挙して押し寄せ、ユンとフロイは大声の男に一発ずつ殴られ、僕はいままさに全員からぼこぼこに殴られるかどうかの瀬戸際、というところだ。


 とりあえずユンとフロイについた嘘をそのまま伝えて、手は出されていないが……。

 ここが正念場だ。

 ここで不自然だとか、ちょっとでも怪しい印象を与えてはならない。バレたら殺される。だからといって焦らず、あくまでも平常心で、「すぐに解ける誤解だ」という風をよそおって、数分間やり過ごす。

 その間に隙を見つけて、ここから抜け出すんだ。


「おー、そうか。んじゃー、ちょっと待っててくれな。お前の父親を呼んでくるから」

「ええ、大丈夫ですよ」

「ああっと、父親ん名前、教えてくれっか?」

「……名前、ですか」

「ああ。知ってるべな?」


 村人の小さな瞳が僕をじっと見ている。

 僕は微笑んだ。


「父はダヴィといいます」

 ダヴィ、ごめん。

「ダヴィさんだな。待ってろ。すぐ戻るからな」

 そういって、村人が一人いなくなった。

 残りの村人たちが油断なくこちらを見ている。

 僕はこれ見よがしに大きくあくびをして、その場に寝そべった。それを見とがめて、村人の一人が大声を出す。

「おい! 動くなって!」

「すいません、疲れちゃって。父が来たら解決なんだし、いいじゃないですか」

「……」


 僕が余裕たっぷりにいうと、村人たちは少し困惑した様子をみせた。迷って、悩んで、焦って、油断してくれたら、僕の思惑は成功だ。父を呼びに行ったあの村人が戻ってくる前に、一瞬のスキをついて脱出する。この分だと難しくないだろう……。


「あれ? なんの騒ぎですか?」

 なんだか外で、聞き覚えのある声が聞こえた。

「わっ!? どうしてここにいるんですか!?」

「人だかりが見えたので」

「いや、ちょっと見知らぬ子どもがいまして。導主様のお客人の息子さんだと言っているのですが……」

「ほう? 今日は父上に客人など来ていないはずですが……」

「……」

「お!」

 物置の中をのぞきこんだイニチェは僕に手を振った。僕は引きつった笑みをうかべて、手を振り返した。


「こんな所にいたのか、探したよ。なるほどね、君……、侵入者だったのかい?」

「えーと……」


 しばらく、誰も何も言葉を発しなかった。その場の空気が凍り付いたように僕には思えた。





 僕は、観念した。


「まあ、はい」

「捕まえろ!」


 油断させるために寝転がっていたのが仇になった。国家そのものを敵に回して、非日常に暮らしているせいだろうか、村人の反応速度は非常に速かった。

 僕もけっこう鍛えていたつもりだったが、体勢を起こすより早く押さえつけられ、取り囲まれた。おまけに物置の外では武器を持った村人が何人も立っていた。


 魔術を使えば、抑え込まれているのを振り払って、立ち上がるくらいはできるかもしれない。

 でもその先は?

 武器を持った彼らを相手にして、この迷宮ダンジョンから無事に逃げ切れるのか? それはどれくらいの確率で?

 捕まってしまうことを許容したほうが、抵抗した末にもう一度捕まってしまうより扱いがいいのではないか?

 どっちがいい? どちらが正解だ……?


 ……。

 んなこと知るか! こんな不運に流されたような状況で、万が一にも死ねるか。円満に解放される望みはないだろう。なら、今ここで、全力で抗うべきじゃないのか。

 よし……!





 しかし。


「【気絶スタン】」


 誰かがそう言うのを聞いた食後、ふっと視界が暗くなり、急速に意識が遠のくのを感じた。


 次に目を覚ました時、僕は鉄格子のついた牢の中に閉じこめられていた。

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